■「勝つ定めのラクダ」

「今スピードを出しているラクダは結局、最後尾で終わる」と車上のナジムさんはうれしそうだ。「加速すべきなのは、2周目だ」

 始めの5キロを過ぎて接戦の先頭集団4頭にナジムさんのラクダも入っている。ナジムさんはスカーフの下でイスラム教の聖典コーラン(Koran)の一節を唱えている。

 追い掛けるバイクやトラックがコース上でスピンし、ドライバーが悲鳴を上げても、ジョッキーは意に介さず、ひたすらゴール前のラストスパートにける。

「ラストスパートは散々だった」とレース後にナジムさんは語った。「4着だったから、なおさらひどい気分だ」

 上位4着までのラクダとジョッキーは、ニジェールのモハメド・バズム(Mohamed Bazoum)大統領が座る貴賓席の前に通される。

 優勝し、満面の笑みを浮かべたムサ君。彼のラクダの名前は「マオカット(無鉄砲)」だ。

 マオカットの調教師モハメド・アリ(Mohamed Ali)さんに驚きはない。レースの前に、「このラクダは勝つ定めのラクダなんだ。ちょうどこの日に。神のおぼしめしのままに」と、語っていた。

 入賞したラクダは砂漠でひっそり暮らしていても、勝利を重ねることでその名は地域に知れ渡る。オーナーは裕福だが、金が目当てではないと言う。

「確かに賞金は懸かっていますが、私たちの関心は勝つことです」と大型厩舎(きゅうしゃ)のオーナー、ハッサン・モハメド(Hassan Mohamed)さんは笑う。「求めるのは喜びと栄光だけです」

 映像は9月18日撮影。(c)AFP/Amaury HAUCHARD