【10月3日 AFP】北アフリカのサハラ(Sahara)砂漠で行われる最大級のラクダレースで優勝したムサ君はまだ10歳。勝利の栄光が彼の行く道を明るく照らす。

 レースは9月18日土曜、サハラ砂漠の玄関口であるオアシスの町、インガル(Ingall)で行われた。ニジェール全土や周辺地域から競走ラクダが集結。「キュア・サリー(Cure Salee、塩治療)」と呼ばれる遊牧民の祭りの呼び物だ。

 優勝者のムサ君は、砂漠で父親の家畜の世話をしているので長く暑い一日に慣れている。

 学校へは行っていないが、ラクダには3歳のときから乗っている。7歳からは自分で乗り回すようになったが、最初は「一人でラクダに乗るのが怖かった」と話す。身長が1メートルに達し、ラクダの膝をようやく超えたところだ。

「たくさんのラクダ」を持つのがムサ君の夢だ。そして何より「他のレースにも勝ちたい」と言う。

■遊牧民の息抜き

 3日間の祝祭は毎年、雨期が終わる9月半ばに行われる。最大400キロも離れた土地から遊牧民のトゥアレグ(Tuareg)やウォダべ(Wodaabe)の人々が、インガルにできたミネラル塩豊富な泉に家畜を連れてやって来る。それが「塩治療」という祭りの名の由来だ。

 音楽や儀式の踊り、求婚、婚礼から家畜や飼い主の予防接種まで行われ、大にぎわいになる。社会から疎外され、イスラム過激派の暴力で荒廃した地域で身動きが取れない遊牧民にとって、厳しさを増す暮らしの中での息抜きでもある。

「欧州にはサッカーがあるが、ここではラクダレースだ」と語るハミド・エクエル(Khamid Ekwel)さん。競走ラクダの有名なオーナーだ。

 明け方、砂漠の中に造られた1周5キロの競走場の周りには、数百人の牧畜民が柵を倒さんばかりに詰めかけていた。

 駐車したピックアップトラックの屋根やラクダの背中に乗って観戦する人もいる。誰もが出走する25頭のラクダに金を賭けて、2周のレースが始まるのを待つ。

 緑色のロープを張ったスタートラインにラクダが整列。ジョッキーたちは幼い。体重が軽いほどラクダが速く走るからだ。

 レースの関係者で人気ラクダのオーナーでもあるラーシャンヌ・アブダラ・ナジム(Lahsanne Abdallah Najim)さんは緊張していた。問題なくスタートできるよう気遣いながら、自分のラクダの勝利を願う。

 ナジムさんは自分のトラックに乗り込み、ブレーキを踏んだままスタートを待っていた。荷台には15人ほど乗っている。

 旗が振り下ろされると同時にラクダが疾走し、観客から大声が上がった。ナジムさんの車を含む十数台が砂ぼこりを巻き上げて後を追う。