■借りる側にも強烈な体験

 生きた「本」は、借りる側にも強烈な体験をもたらす。

 最近アバゲール氏の元に、2004年にヒューマンライブラリーを利用した女性から連絡があった。

「その女性は、(『本』を借りてから)イスラム教徒に対する考えが変わったと言っていました。(中略)それから17年間、その情報を活用してきたのですから、地域にも、自身にも、イスラム系の人々のためにもなってきたわけです」

 社会の分極化が進む世界で、アバゲール氏は自分の取り組みを通じ、人々が「不安を減らし、他者にもっと寛容になり、理解を深め、人と違っている権利を認める」ようになってもらいたいと考えている。

 とはいえ、同氏の団体は多様性の促進や偏見との闘いを主眼にしているわけではないという。

「私たちが運営しているのは中立的な学びの場で、ここでは自分自身と他者に向き合い、学ぶ機会を提供しているのです」とアバゲール氏は話す。「自分が何を学び、学んだことをどう生かすかは、全て自分次第です」

「本」を借りた一人で、カリームと名乗る男性(41)は、ある人に会い、その話に耳を傾け、他者の視点、目の前で明らかにされていく物語を知ると、「非常に心を揺り動かされます」と話した。

「本の題名は人それぞれですが、結局のところ私たちは皆、同じ血と骨と肉を持つ人間なんだなと分かります」 (c)AFP/Camille BAS-WOHLERT