【9月29日 AFP】陳韶華(Chen Shaohua)さん(68)が出掛けたきり帰って来ず、警察に初めて保護された時、家族は、陳さんは混乱していたのだろうと考えた。

 もう一度同じようなことが起き、ようやく陳さんの具合がかなり悪いことに気付いたが、もう遅かった。

「初期の兆候を見逃しました」と娘の陳媛媛(Chen Yuanyuan)さんは話す。「母はここ数年、父がうそをつくと、こぼしていました。(中略)私たちはずっと親元を離れていたので、どういうことかよく分からなかったんです」

 診断は、アルツハイマー病だった。

 脳の神経変性疾患で、効果的な治療法がいまだ見つかっていないこの病気の診断を受けている人は、中国では、およそ1000万人に上り、世界全体の患者数の約4分の1を占めている。

 英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(London School of Hygiene and Tropical Medicine)の研究によると、中国では高齢化が急速に進んでおり、アルツハイマー病の患者数は2050年までに4000万人に達するとみられている。それに伴う医療費支出と家族の介護離職による生産性の低下で、中国の経済損失は年間1兆ドル(約110兆円)に及ぶと研究は警鐘を鳴らしている。

 アルツハイマー病の問題は世界中で深刻化しているが、中国の環境は整備されていないと専門家は指摘する。

 620万人のアルツハイマー病患者がいるとされる米国の場合、専門的な治療施設の病床数は7万3000床だが、中国は200床に満たない。

 中国では数百万人が都市部に移住し、農村部で暮らす年老いた親たちは「取り残され、病気が深刻化しやすい」と国家老年疾病臨床医学研究センター(National Clinical Research Center for Geriatrics Diseases)のホー・ヤオ(He Yao)氏は言う。

 家族が認知症に気付かず、患者は適切な治療を受けられないまま、何年も過ごすことになる。「早期に治療すれば、病気の進行を遅らせることができるのだが」とホー氏は付け加えた。

 中国政府が昨年発表した「健康中国2030」と銘打った行動計画は、アルツハイマー病などの認知症を早期に発見するため、地域単位で検診を実施し、この病気への理解を深めることを目標にしている。

 しかし、医師の養成や専門介護施設の建設、公立病院での認知症患者の受け入れ体制の強化といった具体策には踏み込んでいないという批判の声もある。