■スポーツの釣りは白人のもの?

 フライフィッシングを楽しむ人は、魚の乱獲を防ぐため、たいていの場合、キャッチ・アンド・リリースを心掛けている。

 しかし、食料を求めて釣りをするケニアの人々には、釣った魚を戻すなんて「どうかしている」と思われるとギシェーンさんは言う。

 数十年前、マシオヤ渓谷は反植民地運動の中心地となり、人々は英国から弾圧された。ギシェーンさんによると、1963年にケニアが英国から独立する前も、それ以後も、釣りざおを握ろうとする地元住民はあまりいなかった。

「スポーツとしての釣りは白人のもので、アフリカ人のものではないと思われている」とモーゼスさんは説明した。自身は英国が設けた収容所で生まれ、現在は釣りのガイドをしている。

 マシオヤで設立され、102年の歴史を誇る民間の「ケニア・フライフィッシャーズ・クラブ(Kenya Fly Fishers’ Club)」は、フライフィッシングの魅力をアピールする活動を続けてきた。ケニア人の会員も増え、2018年には初の黒人会長を選出した。

「時代は変わってきました。フライフィッシングもそうです。今では、地元で生まれたケニア人の会員も多い。私もその一人です」と、理事を務めるムサ・イブラヒム(Musa Ibrahim)さんは言う。会員歴は20年になる。

 クラブは地域の学校で子どもたちにもフライフィッシングを紹介し、マシオヤ川のマスの数を増やす方策など、自然保護について啓発している。

 ケニアでマス釣りができる自然の河川は、最盛期には2000キロに及んでいた。しかし、急激な土地開発により10分の1に減少したとイブラヒムさんは言う。

「この遺産を次の世代に残せるかどうかは、私たちにかかっている」と語った。

 映像は8月20日撮影。(c)AFP/Nick Perry