【9月25日 AFP】台湾・台北の外れにある無機質な大きな部屋では、色とりどりのおかずが容器に盛り付けられているが、これは店内で客に提供されるものではない──ここは「ゴーストキッチン」の厨房(ちゅうぼう)だ。

 新型コロナウイルスの大流行(パンデミック)は、世界中の飲食店に大打撃を与えたが、外食産業における宅配事業化はそれ以前から着実に進んでいた。そして、感染拡大による都市封鎖や行動制限により、ゴーストキッチンはアジアで爆発的に増えた。

 近年では、料理デリバリーアプリが大人気となっていたこともあり、レストランで提供されるような食事を自宅に素早く配達してもらうことに利用者は慣れていた。

 そして、この需要に応えるため、デリバリー専門の調理場を設けたり、調理場の一部を間借りしたりする事業者が増えた。こうした調理場は「クラウドキッチン(cloud kitchen)」とも呼ばれる。

 そうした中でパンデミックが起き、世界数十億人の外食習慣が途絶えた。

「これにより(ゴーストキッチン)業界全体が、いわば超成長した。業界にとっては後押しとなった」と台北郊外にクラウドキッチンを構える「ジャストキッチン(JustKitchen)」の陳星豪(Jason Chen、ジェイソン・チェン)最高経営責任者がAFPに語った。

 ジャストキッチンは昨年初め、台湾初となるゴーストキッチンを始めた。現在、台湾全土で17か所、さらに香港の1か所でビジネスを展開中だ。フィリピンやシンガポールへの年内の進出も視野に入れている。

 東南アジアの配車サービス大手、シンガポールのグラブ(Grab)やインドネシアのゴジェック(GoJek)も、このトレンドに飛びついた。グラブは昨年、東南アジア地域に新たに20のクラウドキッチンを設置している。パンデミック前は42店だった。

 市場調査会社リサーチアンドマーケット(Researchandmarkets.com)のリポートによると、今後、世界のゴーストキッチン産業は、毎年12%以上成長し、2028年までに1393億7000万ドル(約15兆4000億円)規模になるという。

 43億人が暮らすアジア太平洋地域は、世界市場の約60%を既に占めている。

 別の国際的市場調査会社ユーロモニターインターナショナル(Euromonitor International)の試算では、現在、約7500のクラウドキッチンが中国で、約3500がインドで展開中だ。一方、米国では1500、英国が750となっている。

 タイでは、人気カフェ・レストランチェーンの「Mango Tree」 と「Coca」が今年初め、バンコク近郊にクラウドキッチンを開設した。アイスクリーム店やカフェを展開する「アイベリーグループ(iberry Group)」もデリバリー専用の拠点を設置した。

 複合企業やチェーン傘下のレストランがデリバリー専門の営業に移行する一方で、家族経営のクラウドキッチンも登場している。

 印航空会社エア・インディア(Air India)を最近退職したニージャシュ・ロイ・チョードリー(Nirjash Roy Chowdhury)さん(61)は、私財をつぎ込んでムンバイ(旧ボンベイ)にクラウドキッチンを立ち上げた。

 6人の従業員は、やはりパンデミックにより大きな影響を受けたホテル業界からの転入者だ。

「6人には食べる物がなかった。この仕事が生活の糧になるのであれば、これに越したことはない」とチョードリー氏は語った。