「あなたの声を現金に換えよう」 中国で増える声優養成講座、トラブルも続出
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【9月23日 東方新報】中国では最近、「声音変現(声を現金に換える)」とうたったオンライン声優養成講座が急増している。スマートフォンで楽しめる音声コンテンツ市場が急成長し、音声書籍や音声ドラマが人気となっていることから、「短期間で音声ドラマの声優になれる」「音声メディア市場で小遣い稼ぎができる」と宣伝しているが、トラブルも相次いでいる。
中国では、ダウンロード数が6億を超えるアプリ「喜馬拉雅(Ximalaya)」をはじめ、多くの音声プラットフォームが林立している。音楽や教養、エンターテインメント、語学、経済・金融、歴史・文化、サブカルチャー、漫才など「音声のユーチューブ」と言えるようなあらゆるジャンルが存在し、市民は移動中や就寝前などの「すき間時間」に愛用している。そしてエンターテインメントの中では音声化した書籍やドラマが人気に。そこで一般市民に「あなたも声優になれる」と勧誘する講座が増えている。
世界有数のIT都市に発展した中国南部の深セン市(Shenzhen)に住む張思斉(Zhang Siqi)さん(23)は、大学を卒業して従業員約30人のインターネット企業に就職。午前9時から午後6時まで受付を務め、残業はないが月給は6000元(約10万1435円)と高くない。家賃も物価も高い深圳市での暮らしは楽ではない。そこで「無料体験レッスンあり」「副業で1万元(約17万円)が稼げる」という宣伝にひかれ、オンライン声優養成講座を申し込んだ。無料レッスンを始めてしばらくすると「学習を続けたい場合は有料コースに申し込んでください。今なら割引があります」と勧誘を受けた。「生徒には音声アルバイトも紹介する」「このコースを卒業した人は、既にヒマラヤでオリジナルの音声小説を発表して稼いでいる」と説明を受け、張さんは12回払いで計5832元(約9万8595円)のナレーションコースに申し込んだ。
しかし実際にコースが始まると、講座は録画・録音した内容を流すだけで、講師とのやりとりはできない。「アルバイトの紹介」もオーディション情報を教えるだけ。オーディションに合格しても1回の収入は50元(約845円)程度だった。さらにショックを受けたのは、自分が受けているコースと同様の内容がインターネット上では500元(約8452円)で販売されていた。声優の道をあきらめた張さんは弁護士の助言を受けて講座を解約。未習分の2000元(約3万3811円)だけ取り戻したが、「結局、『声を現金に換える』のは、私たちから授業料を搾り取る講師の方だった」と肩を落としている。
張さんのようなケースは他にも中国メディアやインターネットで多く報告されており、「ニラ刈りにされた」と怒りの声が上がっている。「ニラ刈り」とは、ずる賢い業者が素人をだますようにお金をむしり取る商法を指す。ニラは刈り取ってもすぐ新しく伸びるため、「だます相手はいくらでもいる」という意味合いがある。
声優の季冠霖(Ji Guanlin)さんは「声優になるためには正規のトレーニングコースで基礎を固め、研修生として2〜3年間スタジオで学ぶ必要があり、それからようやくプロになるチャンスがある」と説明する。現在、声優業界は飽和状態にあり、しかも声優のプロダクションは北京に集中している。ベテラン声優の白鷺(Bai Lu)さんも「声優になっても収入は決して安定しない。初心者が高額収入を得るのは困難。講座の宣伝文句をうのみにしてはいけない」と呼びかけている。(c)東方新報/AFPBB News