本は「読む」から「聞く」時代へ 中国で発展する「耳経済」
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【9月24日 東方新報】中国では最近、インターネットで動画や文章を「見る」ことから、小説やニュースなどを「聞く」スタイルが広がっている。「耳経済」という言葉が生まれ、新たな市場となっている。
上海市の女性会社員、張さんは1日の「すきま時間」はいつもスマートフォンと無線イヤホンが欠かせない。「通勤中は最新のニュースを聞いて、昼休みは財テクや語学の講座、帰宅中は漫才や音楽、家事の最中や就寝前は小説を聞いている。両手は自由に使えるから『ながらスマホ』がしやすい。画像を見すぎて目が疲れることもないし、いいリフレッシュになります」。最近はスマートスピーカーを購入し、「家でヘッドホンをつける必要がなくなった。お風呂に入りながら音声ドラマを楽しめます」と話す。
ダウンロード数が6億を超える音声サイトアプリ「喜馬拉雅(Ximalaya)FM」をはじめ、中国では2010年代に入り「荔枝FM」「蜻蜓FM」など多くの音声プラットフォームが誕生した。音楽や教養、生活情報、エンターテインメント、サブカル、ビジネスなど無数の音声コンテンツが存在する。
調査会社の艾瑞諮詢(iResearch)によると、2019年の音声コンテンツ市場は前年比55.1%増の175億8000万元(約2973億円)。ユーザーは4億9000万人に上り、その76%が「音声プラットフォームで課金したことがある」といい、年間の平均課金は202元(約3416円)となっている。市場は急成長を遂げており、2022年には543億元(約9184億円)に達すると予測されている。
中国で特徴的なのは、小説の朗読やオリジナルの音声ドラマを楽しむ人が多いことだ。第18回全国読書調査によると、成人の31%が「音声の小説やドラマを聞く習慣がある」と答えている。プロの声優による豊かな感情表現と伴奏や効果音が想像力を高めている。2019年に人気長編SF「三体(The Three-Body Problem)」を朗読したドラマは、6シーズン全体の再生回数が6800万回を超えた。
音声ドラマに投資する企業も増えている。中国のテレビドラマは製作費が1億元(約17億円)を超える作品は珍しくなく、映画なら10億元(約170億円)超の大作もある。投資する企業にとっては作品がコケた場合のリスクも大きい。それに比べ、音声ドラマの製作費は数十万元から数百万元程度。ヒットすれば1000万元(約1億7000万円)の収入も可能で、「ローリスク・ハイリターン」が期待できる。最初から音声ドラマのための小説を手がける出版社や作家も増えている。
こうした新習慣に対し、中国メディアやインターネット上では「落ちついた時間にじっくり活字を読むのと比べ、深く考える習慣は身につかないのでは?」という議論が繰り返されている。
また、音声ドラマの声優は1時間あたり100~300元(約1700~5074円)程度のギャラにとどまり、「事前の台本読みなどの時間を含めると、安すぎる」と待遇の低さが問題となっている。
さらに、音声ドラマの人気ジャンルである「耽美(ボーイズラブの意味)」「耽改劇(男性の友情を濃厚に描くブロマンスドラマ)」ものが今後、流せなくなる可能性が高い。日本のボーイズラブ小説を起源とする耽美ものは若い女性を中心に爆発的人気となっており、古代中国をモチーフとした大河ファンタジーの音声ドラマ「魔道祖師」は有料コンテンツでも半月足らずで3000万回近く再生された。しかし中国当局は9月に「耽美などの不良文化を排除する」とインターネット業界に指示。急成長を遂げる音声コンテンツ業界にとって「耳の痛い」問題も増えてきている。(c)東方新報/AFPBB News