■反マッチョな政治性

 コバーンがカルト的な人気を得たポイントは、反マッチョな政治性にあった。「性差別をするやつ、人種差別をするやつ、同性愛者を嫌悪するやつ、つまり、くそ野郎はこのCDを買うな。そっちが俺のことを好きでも、俺はそんなおまえたちが大嫌いなんだ」とコバーンは語っている。

 だが、コバーンは同世代の無関心にいら立ちを示す一方で、冷戦(Cold War)が終結して政治的イデオロギーが意味を持たなくなり、若者が鬱屈(うっくつ)した気持ちを持て余すようになった時代を体現しているようにも見えた。

 最終的にコバーンが選んだのは、社会や政治を変えるために行動を起こすことではなく、名声から逃れ、薬物に依存すること、そして、自殺だった。

「Smells Like Teen Spirit」では冷笑しているのか、投げやりな気持ちからか、コバーンはこう歌っている。「まあ何でもいいや、気にするな(Oh well, whatever, nevermind)」 (c)AFP