■ヒップホップの隆盛を遅らせたアルバム

 キャッチーなリフが特徴的な「Come As You Are」や「Lithium」から、落ち着いた曲調の「Polly」や「Something in the Way」まで、アルバムの収録曲はサウンドは激しいものが多いがメロディーはシンプルで、「童謡みたいだろう」とコバーンは語っている。

 これには、コバーンが前衛的なハードコアバンドだけではなく、「ビートルズ(The Beatles)」や「ABBA(アバ)」、「クイーン(Queen)」などが好きだったことが影響している。

 こうした音楽性とコバーンの荒削りでパワフルな声によって表現されていたのは、浮かれた放縦さと青春の苦悩だ。

 ラッパーでプロデューサーのジェイ・Z(Jay-Z)は、「ネヴァーマインド」の大成功によってヒップホップの隆盛が遅れたと語っている。

 ジェイ・Zは米歌手ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)の自伝に収録された対談で、「当時のロックはルックス重視で、ロックの本質やロックが象徴するもの、つまり若者の反逆的な精神が二の次になっていた」と指摘。「だからこそ、『Smells Like Teen Spirit』はあれほどの反響を呼んだ。誰もが感じていたことを的確に表現していたからだ」と話している。

「ヒップホップが勢いづいた頃、グランジがそれに待ったをかけた。(中略)カート・コバーンがあのメッセージを打ち出した時は、『これはちょっと待たされるな』と思った」