■悪夢のような大ヒット

 コバーンは音楽づくりに意欲的で、日記にはびっしりと今後の詳細な計画をつづっていた。現「フー・ファイターズ(Foo Fighters)」のデイヴ・グロール(Dave Grohl)をメンバーに迎えるまで、ドラマーも次々に首にした。

 しかし、「ネヴァーマインド」が当時、クアドラプル・プラチナ・アルバム(売り上げ400万枚)に認定されるほど大ヒットしたのは、パンクの精神を持ったコバーンにとっては悪夢のような出来事だった。

BMWを乗り回すヤッピー(裕福な若いエリート)ども」も聴いていることにショックを受けたコバーンは、このヒット作を自ら否定するようになる。

 コバーンは伝記作家のマイケル・アゼラッド(Michael Azerrad)氏に、「あのアルバムは出してから一度も聴いていない。ああいう作品には耐えられない」と語っている。

 プロデューサーのブッチ・ビグ(Butch Vig)氏は、レコーディングの際のコバーンには葛藤はなかったと指摘している。「5万枚しか売れていなかったら、おそらく、見てくれがいいだけとは言わなかっただろう」

 コバーンの遺書には「売れる」ことへの苦悩が延々とつづられていた。