【9月19日 AFPBB News】車の往来が絶えない交差点越しに国立競技場を眺められた茶室・五庵。1階の壁には緑濃い芝、2階の壁には漆黒の焼き杉板が張られていた。

 自然素材を生かした建築を多く手掛ける藤森照信(Terunobu Fujimori)氏が設計。2か月以上にわたり、通行人の目も楽しませてきたが、東京パラリンピックが閉幕した先々週から工事が始まり、解体された。

 国立競技場を中心としたエリアに建築家やアーティストが作品を展示するプロジェクト「パビリオン・トウキョウ2021」が、東京都などの主催で7月に開始された。五庵は参加作品の一つだった。

 伝統的ではなく「フリースタイル」の茶室だと、オープン前の五庵で藤森氏は記者団に語っていた。

 テーブルと椅子が据えられた2階の開口部からは競技場が見えた。藤森氏は「非常に巨大なスタジアムをこのちっちゃな場所からのぞくように、穴の中から見る」という考えで作った、と説明した。芝は都市の中に緑を取り込む試みという。

 新型コロナウイルスの世界的流行の中、五輪が1年延期となったため、壁に使われる芝は建築物の緑化を手掛ける株式会社大林環境技術研究所(滋賀県近江八幡市)で、2年近く管理されていた。

 壁面に使われたのは高麗芝、敷地に張られたのは野芝で、スギやヒノキの樹皮をリサイクルした軽量土壌を使用した。

 同社の大林武彦(Takehiko Obayashi)代表取締役社長は、ほぼ毎日芝に水やりをしていたという。それだけに感慨もひとしおだった。芝は「自分の娘」のような感覚だと、AFPBB Newsに語った。

 当初は産業廃棄物として処分される予定だったが、方々の知り合いを当たり、もらい受けてくれる人を見つけた。

「産廃にするのもけっこう重機で砕いたりしなければいけないんです。自分が育ててきたものを解体するというのは、やっぱり抵抗があったので、非常に喜んでおります」と話した。

 2階の茶室本体は、長野県に移設される予定だ。(c)AFPBB News