■日本からも特別注文

 ギシェーンさんが仕入れるフライは、ケニア人の職人が作っている。繊細で手の込んだ製品は、世界中のフライフィッシング愛好者の間で人気を博している。

 小さいものは指先にのるほどで、見た目はマスやサケなどが好む昆虫に似せてある。

 モーゼスさんのお気に入りのフライは、「ロイヤル・コーチマン(royal coachman)」だ。羽根や尾が付いており、マシオヤ川周辺に生息しているチョウに似ている。これで、マスを水面までおびき寄せる。

 信頼できるデータは少ないが、一部の推計によると、欧州で使用されているフライの3分の1はケニア製だという。米国やカナダなどの主要釣り市場にも多く輸出されている。

 釣りはケニアでは一大産業で、すでに多くの雇用を生んでいると、フライを製作する会社を経営しているジョン・ニャポラ(John Nyapola)さんは言う。ナイロビ郊外の工房では、作業台の上にフラミンゴの羽根やウサギの毛皮、端切れなどが所狭しと置かれ、職人がカナダやオーストラリア、日本からの特別注文に応じてフライを手作りしていた。

 職人歴32年のベテラン、ジェーン・アウマ(Jane Auma)さんは、1000個の疑似餌のデザインが掲載されているカタログを示し、「全部うちで作りました」と説明した。

 自分たちは、フライではなく網で魚を捕り、捕ったものは逃がさない、と笑った。