■ユーロ危機

 サッカーがメルケル氏の心温まる一面だとすれば、強硬な側面の矛先を向けられたのがギリシャだ。

 債務危機で同国が欧州連合(EU)に金融支援を要請しても、メルケル氏は譲歩せず、救済措置と引き換えにギリシア政府に財政緊縮策を要求した。

 財政破綻の崖っぷちに立たされたギリシャがユーロ圏からの離脱を強いられそうになった2015年、ギリシャ国民はデモに繰り出した。掲げられたプラカードには、アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)風の口ひげがつけられたメルケル氏の写真もあった。

 だが、財政規律を優先する方針は、新型コロナウイルスの流行で打ち砕かれた。メルケル氏は180度方向転換し、巨額の債務をドイツのコロナ危機脱出の財源としている。

■移民に開き続けた国境

 メルケル氏は2015年9月4日、イラクやシリアの紛争から避難してくる人々にドイツ国境を開いたままにしておくという重大な決定を下した。欧州諸国の移民政策の中で特筆すべきことだが、ドイツ国内で極右勢力の再興に拍車をかけたとも言える。

 数十万人の移民がドイツに流入し、緊急対応を強いられた当局に重圧がかかったときも、メルケル氏は「私たちはできる」と言い切った。

 だが、それもまたドイツに傷跡を残した。移民流入に憤る人々の支持を受けた極右勢力は、2017年総選挙で連邦議会の最大野党となった。