【9月16日 People’s Daily】まだら模様の木製の門を開くと、一面の壁画が目に飛び込んでくる。中国甘粛省(Gansu)敦煌市(Dunhuang)の莫高窟にある優雅な飛天像が眼前に広がる。

 実はここは敦煌ではなく、湖北省(Hubei)武漢市(Wuhan)の武漢大学(Wuhan University)デジタル文化遺産研究センターの研究室だ。研究者の黄先鋒(Huang Xianfeng)さんがマウスをクリックすると、石窟内の3次元モデルがパソコン画面に映し出される。これはデジタル技術を駆使した「3Dクローン」で、莫高窟を訪れなくとも石窟内の細部まで実物と同じように見ることができる。これは敦煌研究所と武漢大学が十数年にわたり努力してきた成果だ。

 敦煌研究所がデジタル化に取り組み始めたのは1990年代にさかのぼる。しかし当時はデジタル化という言葉が登場したばかり。フィルムカメラの解析度は低く精密機器は不足した。技術力も未熟で何度か挑戦したが、休止を余儀なくされた。

 2007年、敦煌研究所の樊錦詩(Fan Jinshi)所長の依頼を受け、武漢大学測量製図遠隔探査情報工学国家重点実験室の朱宜萱(Zhu Yixuan)教授と夫の著名測量家の李徳仁(Li Deren)氏が調査のため敦煌を訪れた。壁画や塑像の鮮やかな彩色は退色しており、夫妻は心を痛めた。「科学技術を使い、時空を超えて敦煌の美しさをデータの中で生き返らせたい」と朱宜萱教授。夫妻は調査を繰り返し、最新の撮影技術と遠隔探査で3Dデジタル化の計画を固めた。

 2008年、既に70歳を超えている朱宜萱教授は黄先鋒さんら武漢大の研究チーム十数名を連れて敦煌を再訪した。チームのミッションは、レーザー設備を使って莫高窟の遺跡を3次元でスキャンし、デジタルカメラで撮影した写真を使い、データを集積することだった。黄先鋒さんは「たとえて言えば、最初に骨格と形状をスキャンし、それから色彩や紋様を取り込むことで、高精度の3次元モデルを作るということです」と説明する。

 長い歳月を経て自然の浸食は進み、石窟内の壁画や仏像は非常にもろくなっている。測量機器を置くだけでも、細心の注意が求められた。貴重なデータの収集に成功した後も、遺跡と全く同じ規模の復元には複雑な技術が必要だった。黄先鋒さんは博士課程の学生の張帆(Zhang Fan)さん、張志超(Zhang Zhichao)さんらと敦煌を再訪した。3人は寝食を忘れ、時には20時間以上も続けて働いた。2か月余を経て、ついに複雑な紋様も正確に解析するソフトを開発した。

 李徳仁さんは「莫高窟だけでなく、敦煌全体の遺跡データを収集し文化財保護に役立てたい」と考えた。1年後、黄先鋒さんら数人のスタッフは三たび敦煌を訪れ、2か月以上滞在。飛行機をチャーターし、レーザー光線による大規模な航空測量を実施した。地上でもレーザー測量を行い、洞窟の岸壁や古代建築物の全方位測量を実施した。

「これまで全景の3Dデータはなく、私たちは洞窟と洞窟の間の距離も知らなかった。今は遺跡の壁の厚さすら分かっており、遺跡の保護活動の強化をサポートしています」と張帆さん。2016年には再び敦煌全体の3Dデータを収集し、10年前と比べて莫高窟の保存技術はさらにレベルが高まっている。

 文化遺産のデジタル化は、文化財の保護と後世への伝承それぞれに役立っている。張帆さんは「私たちの学生は現在、壁画のバーチャル修復、文化財の病変チェック、識別システムなどを研究しています。敦煌を守る長いリレーで、バトンを次の世代にしっかり渡していきたいですね」と話している。(c)People’s Daily/AFPBB News