【9月26日 AFP】メキシコ南東部ユカタン半島(Yucatan Peninsula)に数千か所ある天然の泉「セノーテ」は昔から神聖な場所とされ、先住民マヤ(Maya)にあがめられてきた。人気の観光スポットにもなっているセノーテは今、大規模養豚場の脅威にさらされている。

 陥没した穴に水がたまったセノーテは、リビエラマヤ(Riviera Maya)地区に迷宮のように広がる洞窟の一部を成している。それらの洞窟は、緑豊かなジャングルの地下の巨大な帯水層につながっている。

 先住民はセノーテを飲料水にしており、「聖なる井戸」と呼ばれてきた。

 ツアーガイドとして働く先住民のドロテオ・ハウ(Doroteo Hau)さん(62)は「神の恵みであるこの地域は、ふるいのようなものだ。一帯の水はセノーテに流れ込む」と語った。

 ハウさんは、アジアで急拡大する豚肉需要を賄うための養豚場により、セノーテが危機にさらされていると懸念する。「彼らは私たちが大切にしてきたものを破壊しようとしている」と訴える。

 環境保護団体グリーンピース(Greenpeace)が2020年に公表した報告書によると、人口7500人のホムン(Homun)村には257か所の養豚場があるが、このうち環境アセスメント(環境影響評価)を提出しているのは22か所にすぎない。

 AFPはメキシコ環境・天然資源省にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

 複数の共同体の住民は、人里離れた場所にある養豚場が未処理の廃棄物をジャングルに捨てていると非難している。

「悪臭がひどくて息ができない」と、テオドリタ・レホン(Teodorita Rejon)さん(71)は訴える。

 米農務省によると、メキシコの豚肉輸出額は2020年に30%近く増加し、9億1600万ドル(約1000億円)に達した。

 日本に次ぐ輸出先である中国向けの輸出額は近年飛躍的に伸びており、17年の200万ドル(約2億2000万円)から20年には2億6400万ドル(約290億円)に拡大した。

 養豚場の経営者は、廃棄物の処理は要求されている基準を達成していると主張している。

 ユカタン半島最大の養豚業者「グルーポ・ポルシコラ・メヒカーノ(GPM)」のアルベルト・アルフォンソ(Alberto Alfonso)氏は、「われわれは何も汚染していない」とAFPに述べた。

 グリーンピースの報告書を執筆したビリディアナ・ラサロ(Viridiana Lazaro)氏は、ユカタン半島のセノーテと井戸から採取したサンプルに「汚染物質」が存在したと話す。

 国連開発計画(UNDP)の専門家も同様の報告をしている。

 UNDPのユカタン半島責任者ハビエル・モヤ(Xavier Moya)氏は「責任の一部は養豚場にある」と述べた。採取したサンプルには、動物のふんに含まれる細菌や抗生物質の痕跡も見られたという。(c)AFP/Jennifer Gonzalez Covarrubias