【9月10日 AFP】ジョセフ・ディトマー(Joseph Dittmar)さんは20年前の9月11日、世界貿易センタービル(World Trade Center)の最上層部から避難したときの話を泣き笑いで語る。とっさの判断の連続で命拾いした体験を伝え継ぐことで心が安らぐと言う。

 110階建ての南棟の105階から地上まで下りた壮絶な道のりは、今でも鮮明に脳裏によみがえる。

 当時44歳、4人の子どもがいるディトマーさんは、保険業者の集まりでシカゴからニューヨークに来ていた。国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)に乗っ取られた旅客機2機のうち1機目が隣の北棟に突入したのは、午前8時46分。窓のない部屋で会議中だった。54人の参加者に見えたのは、点滅する照明だけだった。

 階段を使って避難するよう告げられ、90階まで下りたときに初めて、北棟の恐ろしいありさまを目の当たりにした。「あれは人生で最悪の30秒、40秒でした」

 同業者の多くは「催眠術にかかったように」劇的な光景を見つめていた。だがディトマーさんはすぐにその場を立ち去りたかった。

「何てことだ。この街に来ると、いつも何かが起きる」。フィラデルフィア(Philadelphia)出身のディトマーさんはそう思ったことを覚えている。

 階段に戻って出くわした同業者は、トイレに寄ると言った。彼は結局、生き残れなかった。

 78階では別の同業者に、1階直行のエレベーターを待とうと誘われた。

 火災の避難時にはエレベーターを使ってはいけないという心得を思い出したディトマーさんは、また吹き抜け階段に戻った。「今もこうして生きている自分の人生の中で、最高の判断でした」とAFPに語った。

 75階から74階に下りる途中で、吹き抜け階段が「激しく横揺れ」を始めた。ハイジャックされたもう1機が、自分たちのいる南棟に激突したのだ。それもすぐ上の77階から85階の間だった。

「手すりが壁から外れ、足元の階段が海のように波打った。熱気が立ちはだかり、ジェット燃料の臭いがした」

 恐怖に包まれたが、階段にいる人々の間には不思議な一体感があったという。ある男性は障害のある女性を背負っていた。「本当に美しい光景でした。いつもこんなふうだったらいいのにと思いました」