【9月20日 AFP】タイの首都バンコクで100年近く玄関口として親しまれてきたフアランポーン(Hua Lamphong)駅。イタリアネート様式の柱とステンドグラスが特徴的なこの駅から、絶え間なく鳴り響いていた列車の発着音が間もなく消えようとしている。

 フアランポーン駅のサービスの大部分は年内に、バンコクの北に位置するバンスー(Bang Sue)の新駅に移される。新駅には、隣国ラオス経由で中国とつながる高速鉄道も乗り入れる計画だ。最近では新型コロナウイルスワクチンの接種会場としても使われた。

 新型コロナウイルスの流行で、チャイナタウンに近いフアランポーン駅の廃止は1年延期されたが、移転はほぼ完了している。

 新型コロナによる移動規制や外国人観光客の減少により、観光に依存したタイ経済は疲弊している。フアランポーン駅の凝った装飾のアーチ型天井の下を第二の家としてきた、屋台の店主やトゥクトゥク運転手、野宿生活者らこれまで辛うじてやりくりしてきた人々は、将来に危機感を抱いている。

 ターミナル駅のフアランポーンで20年間、空腹の旅行者に食べ物を売ってきたブンクート・カムパクディー(Boonkerd Khampakdi)さん(51)の1日の収入はわずか1000バーツ(約3400円)と、新型コロナ流行前の10分の1に落ち込んでいる。毎月の場所代をまかなうのがやっとだと話す。

 近くではトゥクトゥク運転手のウティサック・インサワット(Wutthisak Inthawat)さん(34)が、駅の出入り口を通る数少ない客を辛抱強く待っている。車のレンタル料、家賃、家族の食いぶちをまかなうのがますます厳しくなっていると言う。3歳と9歳の娘がいるウティサックさんは、「お金が払えなくなれば、故郷に戻るしかない」と訴えた。

 フアランポーン駅の長いプラットホームとのんびりとした雰囲気は長年、タイの鉄道の旅のロマンの一つとなっていた。

 19世紀末にタイで活躍したイタリア人建築家マリオ・タマーニョ(Mario Tamagno)が、ドイツのフランクフルト中央駅からインスピレーションを得て設計したもので、タマーニョの最高傑作と言われている。

 フアランポーン駅の建設は1910年に始まり、6年後に最初の列車が到着した。

 現在、正面玄関の噴水がある場所は第2次世界大戦(World War II)中、旧日本軍のタイ進駐後に建てられた100人収容できる掩蔽壕(えんぺいごう)の跡だと、地元の鉄道愛好家ウィサルット・ポンシット(Wisarut Bholsithi)さんはAFPに語った。

 連合軍の空襲で、爆弾がアーチ型の天井を直撃し、駅に避難していた人は全員死亡したという。

 タイ国有鉄道(State Railway of Thailand)によると、新型コロナ流行前のピーク時には年間3700万人がフアランポーン駅を利用していた。国有鉄道は建物保存のため、商業施設を併設する鉄道博物館にする計画だ。(c)AFP/Lisa MARTIN and Pathom SANGWONGWANICH