【9月7日 AFP】南米アルゼンチンの首都ブエノスアイレス郊外にある高級住宅地に、体の大きな齧歯(げっし)類が頻繁に出没している──カピバラだ。カピバラの「侵入」は、同国の環境・社会政策の課題を浮き彫りにしている。

 湿地帯を開発してできた1600ヘクタールの「ノルデルタ(Nordelta)」は、塀で囲まれ、敷地の入り口にゲートが設置された富裕層の居住区だ。この近くを流れるパラナ川(Rio Parana)に、カピバラが生息している。

 侵入するカピバラが手入れの行き届いた芝生を荒らしたり、ペットにかみついたりする他、交通事故の原因にもなっているという住民の苦情が後を絶たない。

 現地で「カルピンチョ」とも呼ばれるカピバラは、体長1.35メートル、体重80キロにまで達する最大級の齧歯類だ。

 絶滅危惧種の保護および環境問題に取り組む財団「リワイルディング・アルヘンティーナ(Rewilding Argentina)」のセバスチャン・ディマルティーノ(Sebastian di Martino)所長は、「ノルデルタは豊かな自然が広がる湿原地帯。決して手を付けるべきではなかった」とAFPに語り、「既に影響は出ている。住民らはカピバラと共存する道を模索するしかない」と指摘する。

 ノルデルタの居住区ができたのは今から20年前。敷地内には、住宅やオフィスの他、ショッピングセンター、学校、教会、シナゴーグ(ユダヤ教の会堂)などがあり、水鳥が生息する人工の池もある。

 だが、クリニックを設ける目的で最後の手付かずの土地を開発し始めてから、カピバラの侵入が見られるようになったと多くの住民は語る。

 湿原地帯での大規模開発はカピバラの生息地を奪うだけではなく、大雨の際に必要となる保水機能も阻害する。その影響で周辺のより貧しい地域に水害を生じさせてしまうのだ。

 政治的に二極化するアルゼンチンでは、ノルデルタの居住区が富裕層による搾取の典型的な例だとして、長らく左派の批判を招いてきた。また、労働者階級のヒーローとしてカピバラがパロディーで描かれることもあった。

■われわれが彼らを追い詰めた

 すべての住民がカピバラを厄介者と思っているわけではない。一部からは、保護区の設置を求める声も聞かれる。

 ある住民は、「多様性を維持するためには、20〜30ヘクタールの保護区があれば十分」と話す。「カピバラにはどうすることもできない。われわれが彼らを追い詰め、生息地を奪った。そして今度は、彼らが侵入してきたと文句を言うようになった」 (c)AFP/Nina NEGRON