【9月5日 AFP】アフリカ北東部ジブチの首都のお昼時、レストラン「シェ・ハムダニ(Chez Hamdani)」は大賑(にぎ)わいだ。地元の著名人、海外移住した人の子孫、遊牧民のグループ──誰もがこの老舗の唯一のメニュー、イエメンの魚料理を求めてやってくる。

 魚の身を二つに割り、赤唐辛子のペーストを塗り、伝統的な土の窯で焼く。そのスパイシーな風味は、アフリカとアラビアに挟まれた沿岸に位置する小国がたどってきた複雑な多文化の歴史を思い起こさせる。

「イエメンから輸入されたレシピで、私たちの食生活の一部になっている」。説明してくれたのは、注文を待っていた元テレビキャスターのアブバカル・ムーサ(Abubakar Moussa)さんだ。

 店の常連だという63歳の男性が、「老いも若きもジブチ人はみんな食べている」と付け加えた。

 天井の扇風機がむなしくかき回すジブチの猛烈な暑さも、ムーサさんを訪ねてきたベルギー国籍の孫たちの興奮をかき消すことはできない。

 16歳の孫ソハネさんは「ジブチに来るたびにここに連れて来てもらって、とてもうれしい」と語る。「ブリュッセルの家で作っても同じ味にはならないけど、ジブチを思い出す」

■一番大事なのは「唐辛子」

 アデン湾(Gulf of Aden)を挟んでイエメンと面する港町の首都ジブチには、「ムクバサ」と呼ばれるイエメン風料理の店が点在している。漁師が1日に何度もタイ科の魚やボラを届けている。

 そして、いよいよ料理人の出番だ。

 魚を縦に割って塩を振り、エチオピアから輸入した辛みがマイルドな赤唐辛子を使ったペーストをはけで塗る。

「一番大事なのは唐辛子だ」と話す料理人。汗を流しながら、長い金属の棒に魚を固定し、インドのタンドールに似たテラコッタ製の窯に入れる。

 15分後に取り出すと完成だ。まろやかな辛さと強烈な赤い色は、唐辛子からきている。

 経営者のオマール・ハムダニ(Omar Hamdani)さんは、祖父の「世界的に有名な」レシピのおかげで、一家がイエメンから移住して100年近くたった今も店の人気が続いていると語った。

■故郷の味

 イエメン人は、イッサ人、アファール人に次いでジブチで3番目に多い民族だ。イエメンとジブチ間の人と物の行き来は、何千年も前から続いている。

 2014年以降は多くのイエメン人が、内戦を逃れてバブエルマンデブ海峡(Bab-el-Mandeb Strait)を渡り、ジブチに避難している。

 イエメンの首都サヌアから逃れてきた元公務員のアミン・マクタル(Amin Maqtal)さん(45)は、2人の移民仲間と共にムクバサを始めた。

「このレストランで食事をし、同胞に囲まれている限り、幸せだ。イエメンで持っていたものがすべて、ここでも持てるのだから」

 映像は4月に取材したもの。(c)AFP/Marion DOUET