【9月3日 東方新報】中国政府が打ち出した「学習塾禁止令」により、中国各地で学習塾の閉鎖が相次いでいる。過熱する一方の受験戦争を助長する存在として塾が「取り締まり」の対象となっている。

 中国政府は7月24日、「小中学生の宿題を軽減し、学外教育の負担を軽減する」という「双減」方針を発表。小中学校が児童・生徒に課す宿題を細かく制限すると同時に、小中学生向け学習塾の新設は認めず、既存の学習塾は非営利団体として登記させるとした。学校の宿題はともかく、学習塾は存在そのものが否定される形となった。

 それから約1か月。北京市は8月25日、「違法な運営をしていた63の学習機関を閉鎖させ、計311万元(約5293万円)の罰金を命じた」と発表した。市の市場監督部門幹部の賀捷(He Jie)氏は「双減の方針に基づき集中取り締まりを行い、無許可運営、違法広告、価格詐欺などの違法行為を摘発した」と成果を誇った。北京市教育委員会も同日、学習塾を非営利団体に改める「営改非」を推進していくと表明。塾講師の転職支援や、条件をクリアした学習機関の「ホワイトリスト」公表などの方針も示した。こうした取り組みは全国各地で同様に行われている。学習塾が自ら閉業するケースも多く、ビルに設けられた各地の教室や事務所は次々と無人となっている。

 日本の報道では、「双減方針は少子化対策が狙い」という見方も多い。中国では労働力人口が2013年をピークに減少に転じており、2016年からは「一人っ子政策」を完全撤廃し2人目の出産を認めたが、出生人口の減少はそれでも続いている。今年に入り3人目の出産も容認したが、たった1人の子どもを「勝ち組」にするため財産の大半を教育費に注ぎ込む現状を是正しない限り、出産人口増は望みにくい。そのために「双減」を打ち出したという分析は一理あるが、中国の子どもや教育をめぐる問題はそれだけではない。

 中国では学習塾の個別指導やオンライン学習が急速に広がり、教育産業の市場規模は10兆円を超えているといわれる。それと同時に、「あなたが塾に来たら、あなたの子どもを教えます。あなたが来なければ、あなたの子どものライバルを教えます」「あなたが前進しなければ、他の親の子どもが前進します」というように、親の危機感をあおるような悪質な広告も目立つようになった。正規の許可を受けない学習塾の乱立、授業料の不当表示、講師の経歴や資格の詐称といった問題も起きていた。こうした現状に根本的なメスを入れたのが今回の「双減」の方針だ。

 また、中国では大学を卒業する若者の就職難が深刻になっている。中国は経済の高度化を進めるためホワイトカラー層を育成しようと、大学入学定員を急速に増やしてきた。1998年に108万人だった大学入学者は今年909万人に達した。その結果、即戦力を求める大企業とのミスマッチが起こり、卒業して就職する学生は3人に1人程度で、「卒業と同時に失業」という状態が当たり前となった。一方で工場の労働者は人手不足に陥り、日本での同様の職場の初任給を上回るような給与でも人が集まらなくなった。中国企業は人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)を駆使して無人の港湾労働や集配倉庫などを実現しているが、それでも一定のスタッフは必要となる。

 中国には欧米諸国のような移民政策を進める選択肢はなく、現業労働を選択する国民が必要となる。「全員が一流大学を目指し、子どもの時から受験勉強に突き進む」という状態は経済構造の実態にそぐわない。「双減」政策には、若者が目指す進路と社会構造のミスマッチをできる限り解消しようという狙いもあるようだ。(c)東方新報/AFPBB News