【8月29日 AFPBB News】「知らない人に声をかけて写真を撮るのは、やっぱり苦手なんですよね」──AFPナイロビ支局の千葉康由(Yasuyoshi Chiba)氏(50)は、取材の現場での心情を明かした。昨年の「世界報道写真(World Press Photo)」コンテストでは日本人として41年ぶりとなる大賞を受賞した千葉氏に、ファインダーをのぞく際の心構えや撮影を続ける理由について聞いた。

 学生時代はドキュメンタリー映画に関心があったが、写真を学ぶ過程で「写真自体が一番ミニマルな動画ではないか」と気付いたと語る。朝日新聞社で写真記者として働いた後、フリーランスへの転身を考え2007年に退職。結婚も転機となり、妻の赴任先であるケニアに移住した。

 ケニアでは当時、大統領選挙後に候補者同士の争いが部族間の争いに発展していた。千葉氏は候補者同士のせめぎ合いを撮影し、現場に不在だったAFPに写真を売り込んだ。この出会いで自分の世界が広がったと語る。

 縁が重なり、後にブラジルのAFP支局に勤務。6年にわたり、サッカーW杯(World Cup)やリオデジャネイロ五輪などを取材した。「細い糸でいつもつながって」チャンスを手繰り寄せてきたと振り返る。

■世界報道写真大賞の舞台裏

 千葉氏はリオ五輪後、ナイロビ支局への異動を希望。現在は12か国をカバーする支局のチーフフォトグラファーとして、特派員をまとめている。2019年に同僚記者を支援するためスーダン入りした際、受賞作の「Straight Voice(まっすぐな声)」を撮影した。

 写真は集会で抗議の詩を暗唱する少年を撮影したもので、千葉氏は彼の表情の強さに引かれてシャッターを切った。数週間前、軍に抗議するデモ参加者に発砲が起き、治安部隊の厳しい監視下で集会は行われていた。ネットや電気も遮断された中、暗闇から手拍子が聞こえた。

 暗闇での撮影をかなえたのは、参加者らの携帯電話の光だ。夜になると降りてくるちりでもやがかり、幻想的な光景が広がっていた。

 少年のモハメド・ユースフ(Mohammad Yousef)さんは現在、オランダに留学中だ。昨年12月にはモハメドさんの家族との面会がかない、留学先の選考過程で大賞受賞の写真が後押ししてくれたと聞いた。

 コロナ禍での取材活動は難しいが、今年6月にはエチオピアに向かう機会もあった。

 政府軍との武力衝突が続くティグレ(Tigray)州の取材から戻る日、市場で空爆が起きた。滞在を延ばす中で、エチオピア軍と入れ替わるようにティグレ軍が戻り、「8か月間の戦いの幕切れを見ることができた」と振り返る。だが旅程は10日延び、最後は商業フライトや通信網、電気も止まった中から国連(UN)の車列に連なるように脱出した。

 ティグレで7000人にのぼるエチオピア軍の捕虜を撮影した際は、生死を心配しているであろう彼らの家族のことを思い、多くの顔が写るように心がけた。