【8月24日 東方新報】中国の若者の一部で広まっていた伝統衣装「漢服」を着るブームが、市民権を獲得するようになった。日本の着物と異なり中国では伝統衣装を着る文化はほとんど廃れていたが、ゲームの影響やSNSで「映える」ことから、急速に拡大している。

 日本で中国の伝統衣装というと、詰め襟のワンピースで両横にスリットが入った「チャイナドレス」のイメージが浮かぶ。しかし中国では「旗袍(チーパオ、Qipao)」と呼び、誰もチャイナドレスとは言わない。清王朝の支配層である満州民族の民族衣装に西洋の裁断要素を融合させ、セクシーな形で20世紀前半に広まったものだ。では漢服とは何かと言うと、チャイナドレスとは真逆にゆったりとした服装で、丈が長く、襟や裾がヒラヒラとした「仙女」のイメージがそれに近い。

 日本では成人式や卒業式などに和服をまとうことが多いが、中国ではそうした風習も途絶えていた。中国で若者が漢服を着るブームが始まったのは2000年代前半。コスプレパーティーのように公園などで撮影会をしていると、大人から「それは日本の着物? 韓国の衣装?」と聞かれるほどだった。若者の間でも一種の「オタク文化」扱いだった。

 しかしここ数年、ショートビデオ投稿プラットフォーム「抖音(Douyin)」や「快手(Kuaishou)」で宮廷の皇女のようなファッションを投稿する若い女性が増えると、「カワイイ!」と人気が急速に広まった。漢服のデザインそのままではなく、大胆な刺しゅうやプリーツを入れた現代的なアレンジが歓迎された。世界的に大ヒットした中国発のモバイルゲーム「王者栄耀(Honor of King)」のキャラクターを模した伝統衣装も広まった。

 漢服ブームの当初は衣装、髪飾り、靴までそろえると費用は1万元(約17万円)を軽く超えた。ロリータファッション、日本のJK(女子高生)ファッションと合わせ「破産三姉妹」とも言われた。しかし人気の高まりとともにアパレル業者が次々と誕生し、Eコマース大手も漢服セールに力を入れると、低コストで漢服を仕入れることができるようになった。

 調査会社によると、2021年の漢服ファンは約6900万人、市場売上高は101億6000万元(約1717億円)と推計されている。卒業式に漢服を着るだけでなく、普段着で漢服をまとう若者も日に日に増えている。多民族国家・中国らしく、最近は少数民族の衣装を着る人も増え、「漢服」でなく「華風」と呼ぶ人も。「ニッチ(すき間)な趣味」と言われた伝統衣装ブームが、「古くて新しい」中国文化になりつつある。(c)東方新報/AFPBB News