【8月22日 AFP】日本のある外交官が、その日に作った折り鶴を紹介する動画をインスタグラム(Instagram)に投稿し続けている。1年間ほぼ毎日、ほぼ同じ構図、ほぼ同じ内容で。

 在シアトル(Seattle)総領事の稲垣久生(Hisao Inagaki)氏(60)は20日に投稿した動画で、「きょうはシアトルに来て365日目です」と語った。「皆さんの健康と平和を祈りながら、365羽目の鶴を折りました」

 昨年8月に米国に着任した稲垣氏にとって、これは勝利の瞬間だった。着任当時、米国は新型コロナウイルスによる健康危機の真っただ中で、対面でのコミュニケーションは難しかった。

「折り鶴の動画撮影を始めたのは、(新型コロナの)パンデミック(世界的な大流行)がきっかけでした」と稲垣氏はAFPのビデオインタビューで答えた。「ソーシャルメディアを使って皆さんにメッセージを送り、思いやりを伝えたかったのです」

 そして、禅のような投稿が始まった。稲垣氏は毎日同じ構図の動画で、同じメッセージを伝えている。変わるのは、着任からの日数と着ているシャツだけだ。

 日本で何百年も前から作られてきた折り鶴は、長寿の象徴とされている。

「鶴を千羽折ると、良いことがあると信じられています」と稲垣氏。「千羽」は1000羽ではなく、「たくさん」という意味だと説明した。

 193日目と194日目の2日間は投稿がなかったが、195日目には冒頭にいつもと違う「ただいま!」というあいさつを添えてから、再びいつものパターンに戻った。稲垣氏は自分の計画と台本を忠実に守り続けた。

 節目となる20日の投稿には、スーツを着た稲垣氏と365羽目の鶴の他に、鶴を並べて作った「365」という数字が映し出された。

「毎日(投稿を)続けるには、シンプルな方がいいと思いました」と稲垣氏は言う。

 稲垣氏のインスタグラムは、その簡潔さゆえにまるで催眠術のような雰囲気を醸し出している。それぞれ10~11秒ほどの動画は、自己完結型のパフォーマンスアートであるかのようだ。

 折り鶴は一つ一つ日付を入れて、大きな箱に保管している。シアトルを離れる時に寄付したいと稲垣氏は言う。保育園や高齢者施設など、「折り鶴はどなたかに差し上げたいと思っています」

 それまでは900人近いフォロワーに喜んでもらえるよう、鶴を折り続けるつもりだ。

 360日目、あるフォロワーは「毎日、あなたの動画を楽しみにしています」とコメントした。

 別のフォロワーは「すてきです」と記し、「あなたが私の街に住んでいてくれてうれしいです」と続けた。 (c)AFP/Huw GRIFFITH