これは五輪に限った問題ではない。

 先月、英クリケット選手のベン・ストークス(Ben Stokes)が「心の健康を優先するため」無期限の休養に入ると宣言。日本の女子テニスのスター、大坂なおみ(Naomi Osaka)もメンタルヘルスの問題を理由に、全仏オープンテニス(French Open 2021)を棄権、ウィンブルドン選手権(The Championships Wimbledon 2021)を欠場した。

「今、あらゆるスポーツで見られる問題だ」とピーティは言う。「メンタルヘルスは重要だ。エリートレベルでもバランスを取らなければいけない」

 国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)のヘンリエッタ・フォア(Henrietta Fore)事務局長は、バイルスに対し「ロールモデルとなり、メンタルヘルスを優先しても良いのだということを世界に示してくれた」と感謝している。

 心理学者のメリアン・サルミ(Meriem Salmi)氏は、アスリートたちがこの問題をオープンに論じていることに意を強くしている。

 仏柔道のスターで東京五輪にも出場したテディ・リネール(Teddy Riner)らにアドバイスしているサルミ氏は、「この分野に30年関わり、皆と同じようにアスリートにも感情があるのだと訴えてきた」と言う。「それでも、チャンピオンをうつ病と診断するのは難しい。彼らはそれを見事に隠せる」

 ベルギーのルーバン・カトリック大学(UCLouvain)のフィリップ・ゴダン(Philippe Godin)教授(スポーツ心理学)は、いわゆる「スノーフレーク世代」(ストレスからの回復力が弱く、怒りやすい若者)の耐性のなさを非難するのは早計だと指摘する。

「うつ病という言葉には軽蔑的な意味合いがあり、一般の人たちからはあまり理解されていない。スポーツでは、自分は強い人間であり、タフで、ほぼ無敵であることを示さなければならない。弱さとは両立しない」

 これまでに五輪の馬術競技で6個のメダルを獲得している英国のシャーロット・デュジャルダン(Charlotte Dujardin)は、2012年のロンドン五輪で2個の金メダルを取った後にうつ病と闘った経験があり、バイルスに対して同情的だ。

「成功し続けることは容易ではない。プレッシャーと期待に満ちたつらい立場だ。常にそれを背負うのはつらいことだ」 (c)AFP/Nick REEVES