【8月11日 東方新報】中国政府が7月下旬に発表した「双減」と呼ばれる通知が、中国国内で衝撃を与えている。「小中学生の宿題を軽減し、学習塾など学外教育の負担を軽減する」というものだ。受験勉強の激化により学校間や学習塾の業績争いがエスカレートする現状にくさびを打ち、児童・生徒の負担を減らすのが目的としている。だが、「中国版ゆとり教育」とも言える方針の狙いは、1人当たりの教育費を抑えて少子化に歯止めをかけるという見方も出ている。

「双減」の内容は微に入り細部にわたる。「宿題の軽減」では、小学1~2年生には筆記式の宿題を出さない。宿題の目安は、小学3~6年生は1時間、中学生は1時間半を超えてはいけない。保護者が子どもの宿題をチェックすることも制限し、就寝時間を厳守させる。代わりにスポーツや芸術活動、読書、家事を奨励している。

「学外教育の軽減」ではなんと、学習塾の新設を許可せず、既存の学習塾は非営利組織とすることを求めている。週末や長期休暇に塾で教えることもダメ、就学前の児童に英語などを教えることもダメ。株式市場で資金調達することも禁じた。

 この通知により、学習塾二大大手の新東方(New Oriental Education & Technology Group)と好未来(TAL)、さらにオンライン教育大手の高途(Gaotu)の株価は大暴落した。新東方や高途は今年に入り、株価最高値を更新したばかり。国内外のメディアが「中国の学習産業は日の出の勢い」と取り上げていた。上海市の学習塾に昨年就職したばかりの数学講師、曹雪萍(Cao Xueping)さんは「夏休みの授業は中止になり、保護者への返金作業が仕事になっている。日の出の業界に入ったつもりが斜陽産業になってしまった」と嘆く。

 中国の民間機関によるリポートによると、中国の小中高校生が宿題にかける時間は2017年で1日平均2.82時間に上り、世界トップを独走している。中国では毎年6月、日本の大学入試センター試験に当たる全国統一大学入試(通称・高考)」が行われる。高考の点数のみで大学の合否が決まり、将来の就職にも大きく影響する「人生をかけた一発勝負」。このため、学校も親も幼少期から子どもに勉強を奨励。「支出の大半が教育費」という家庭も当たり前となっている。

「幼少期からの勉強漬けは子どもの健全な成長にマイナスだ」という指摘は常にあり、李克強(Li Keqiang)首相も年間施政方針「政府活動報告」で学習負担の問題を取り上げている。教育部は何度も宿題の制限や学校での補習禁止などの方針を打ち出しているが「恒例行事」のように受け止められ、現場には浸透していない。しかし今回の「双減」通知は政府が「本気」となっていると受け止められている。

 中国では労働力人口が2013年をピークに減少に転じており、携帯電話や新車の販売台数はここ数年、低迷が続いている。総人口も早ければ今年中に減少が始まるといわれている。このため、中国政府は2016年から「一人っ子政策」を完全撤廃し2人目の出産を認めた。出生人口は一時的に増えたが再び減少に転じ、2020年の出生人口は1200万人にとどまり、前年比18%もダウンした。出生人口を増やす狙いが「大いなる空振り」となった大きな要因が、たった1人の子どもを「勝ち組」にするため財産の大半を教育費に注ぎ込む家族スタイルが挙げられている。

 中国政府は今年5月、3人目の出産を認めることを発表した。この政策が「絵に描いた餅」とならぬよう、子どもの教育費軽減に「双減」を打ち出したという見方が多い。ただ、中国社会を表すのによく使われる「上に政策あれば、下に対策あり」という言葉通り、「双減」が確実に浸透するかは分からない。早くも「これからは学習塾に変わり、家庭教師が増える」という見通しが広がっている。「そもそも、現代の科挙のような高考システムが変わらない限り、受験勉強はなくならない」という指摘もある。中国では「日本経済が活力やイノベーション能力を失ったのは『ゆとり教育』に一因がある」という分析もあり、「中国版ゆとり教育」に対する揺り戻しの議論が起きる可能性もある。「双減」の方針がどこまで貫徹されるか、今後が注目される。(c)東方新報/AFPBB News