【8月4日 AFPBB News】南太平洋にある島しょ国、キリバス。東京五輪の開会式で、青地に桜と富士山(Mount Fuji)があしらわれた同国選手団のユニホームは記憶に新しい。旗手を務めたキナウア・ビリボ(Kinaua Biribo)選手(27)に、衣装に込められた思いや競技への情熱を聞いた。

 ビリボ選手は、柔道女子70キロ級に出場した。「技だけでなく、礼節を重んじる」柔道との出会いは2019年。キリバスレスリングの競技経験はあるものの、わずか2年足らずで五輪出場を決めた。「肉体だけでなく、精神も鍛えられるスポーツだ」と、柔道の魅力を語った。

 開会式では、同国初となる女性旗手を務めた。

「キリバスのすべての人を代表しているのだと、思いがあふれた」──式の前、旗を手にして涙がこぼれた。ユニホームは、開催国である日本へ敬意を表したデザインだという。右胸に描かれた富士山と、右肩から脇に連なる桜の花びらが印象的だ。

「日本にいるのだから、日本をリスペクトすべきだということで選ばれたものです」と語る。「日本の人々をリスペクトすべきだし、私は常に敬意を示すようにしています」

 ビリボ選手は2020年2月、オセアニア柔道連盟(Oceania Judo Union)のプログラムで来日。1か月のトレーニングの予定だったが、新型コロナウイルスの流行を受け、キリバスが国境を閉じたため帰国せず、1年以上が経過した。

 茨城県の流通経済大学(Ryutsu Keizai University)の講師で柔道部監督の岩崎卓(Takashi Iwasaki)氏、フィジーから来日していたナウル・ジョサテキ(Naulu Josateki)コーチの尽力もあり、各方面から支援を得た。滞在中には、ロシアで開催されたグランドスラム・カザン(Grand Slam Kazan)やハンガリーで開催された世界柔道選手権(World Judo Championships 2021)にも出場。来日してから技を磨いた。

 東京五輪では、初戦で敗退。世界中の強豪が集う五輪での戦いは厳しいものだった。「自分はまだ初心者」と振り返る一方で、今大会で柔道家の仲間も増えたという。パリ五輪を見据えるにあたり、まずは日本に残り、「柔道の技を研さんしたい」と語る。将来的には、キリバスで柔道を子どもたちに教えたいという。

■柔道を続けるもう一つの理由

 キリバスは南太平洋に浮かぶ三つの諸島群から成り、人口は約12万人。ビリボ選手は北部のブタリタリ(Butaritari)出身。米や魚を食べる点は日本と似ているが、今一番恋しい食べ物はココナツだ。ジュースやおかず、おやつとしても食されるという。

 キリバスの国民性は「お互いを尊重することや、年長者を敬う姿勢は日本と似ている」としながら、互助の精神があると語る。血縁がなくても「塩や砂糖でも、何でも貸し借りできる。本当に優しい島」と語る。

「世界的に有名な柔道というスポーツは、キリバスについて多くの人に知ってもらうきっかけになる」とビリボ選手。国際大会に出場することで、キリバスが直面する海面上昇の影響についても注意を向けてほしいという思いがある。キリバスは山がなく平均海抜約2メートルのため、気候変動の影響を受けやすい。

 自国の温暖化ガスの排出量は少ないのにもかかわらず、このままだと今世紀末までに水没する最初の国になりかねないと、国連(UN)は警鐘を鳴らしている。また、水没せずとも、海水によって飲み水や農作物が影響を受け、島に住めなくなる可能性も懸念されている。

 キリバスの人々はそのような事態を望んでいない。──優しい島を守りたいという思いが、ビリボ選手が高みを目指す原動力につながっている。(c)AFPBB News/Marie SAKONJU