【7月30日 AFP】医学史上数々の画期的発見に貢献してきた「HeLa(ヒーラ)細胞」が無断で採取された、故ヘンリエッタ・ラックス(Henrietta Lacks)さんの遺族が29日、一連の発見から利益を得た大手製薬企業を訴える意向を発表した。

 5児の母だった黒人女性のラックスさんは1951年、メリーランド州ボルティモア(Baltimore)のジョンズ・ホプキンス病院(Johns Hopkins Hospital)で子宮頸(けい)がんのため31歳で亡くなった。

 ラックスさんの治療の際、本人の知らないうちに腫瘍から採取された細胞が研究者に送られ、遺族も知らないまま何十年も使用されていた。

 孫のアルフレッド・カーター(Alfred Carter)さんは、「あまりにも長い間、ラックス家は搾取され、利用されてきた。私たちは、もうこれ以上はたくさんだと声を上げる」と語った。

 ラックス家は訴訟に当たり、公民権専門の著名弁護士ベン・クランプ(Ben Crump)氏に依頼した。クランプ氏は、白人警官から暴行を受けて死亡したジョージ・フロイド(George Floyd)さんら、警察との衝突で死亡した多くのアフリカ系米国人の遺族の代理人となっている。

 クランプ氏は、「米国において黒人の命は尊重されなければならない」と述べ、ラックスさんが亡くなってから70年に当たる10月4日に提訴すると発表した。

 HeLa細胞と呼ばれるラックスさんの細胞は、世界中の研究に使われ、ポリオをはじめとするワクチン開発の他、がん治療やある種のクローン技術の開発につながった。

 しかし、遺族がラックスさんの医学的貢献を知ったのは1970年代になってからだった。さらに、その貢献の大きさを初めて理解したのは、2010年にベストセラーとなったレベッカ・スクルート(Rebecca Skloot)氏の著作「不死細胞ヒーラ─ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生(The Immortal Life of Henrietta Lacks)」によってだった。

 クランプ氏の同僚、クリストファー・シーガー(Christopher Seeger)弁護士は、HeLa細胞の「使用によって利益を得た」ことがあり、遺族への補償について合意に達していない企業を対象にした訴訟だと述べている。クランプ氏もシーガー氏も、この訴訟に関与すると思われる具体的な企業名は挙げていない。(c)AFP