【7月28日 AFP】国連教育科学文化機関(ユネスコ、UNESCO)の世界遺産委員会(World Heritage Committee)は26日、タイ西部にあるケーンクラチャン森林群(Kaeng Krachan Forest Complex)を世界自然遺産に登録したと発表した。同森林群をめぐっては、域内の少数民族の人権侵害が懸念されている。

 ケーンクラチャン森林群は、ミャンマー国境付近に位置し、広さは48万ヘクタール以上。野生動物保護区と三つの国立公園を有しており、絶滅が危惧されるシャムワニが生息するなど、生物多様性に富んでいる。

 同森林群は少数民族カレン(Karen)の居住地となっており、タイ政府は長年、暴力や嫌がらせによってカレンをこの地から追い出そうとしてきたとされている。

 政府は、ケーンクラチャン森林群を世界自然遺産に登録しようと長年活動をしていた。プラユット・チャンオーチャー(Prayut Chan-O-Cha)首相はユネスコの決定を受け、同森林群を「国際的基準」に従って保護すると誓った。

 プラユット氏は27日、政府は今後、「ケーンクラチャン森林群を共に回復させ、地元住民の生活の発展と人権を促進する」とフェイスブック(Facebook)に投稿した。

 国連(UN)の専門家らは先週、ユネスコの世界遺産委員会に対し、独立監視団が同森林群を訪れ、カレンに対する懸念が解消されるまで、決定を延期するよう求めた。

 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の発表で専門家3人は、「これは重要な前例となる。アジアの自然保護区域において少数民族の権利がどれほど尊重されるかという政策に影響を及ぼす可能性がある」と指摘した。

「自然公園内のカレンは、強制的に立ち退かされ、家を焼かれている」

 世界遺産委員会は2016年と19年、人権問題を理由にケーンクラチャン森林群を登録しなかった。

 タイ当局は、少数民族の農耕が森林に損害を与えるとしているが、活動家らは伝統的な農耕は環境を破壊しないと主張。人権保護団体は、タイ当局が少数民族を立ち退かせるため、嫌がらせと暴力を使っていると非難している。

 捜査当局によると19年、5年前から行方不明となっていたカレンの指導者の黒焦げになった骨が、ケーンクラチャン森林群内で発見された。(c)AFP