【7月28日 AFP】カナダ西部で6月、ロシア・シベリア(Siberia)で昨年、過去の最高気温を吹き飛ばすような熱波が発生した。この熱波を引き起こしているのは、地球温暖化の程度ではなく、その急なペースだとする研究結果が26日、発表された。

 英科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジ(Nature Climate Change)に掲載された論文は、人類が今後数十年で、さらに多くの致命的な熱波を目の当たりにする可能性を示唆している。

 スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETH Zurich)の上級研究員で、現在検討されている国連(UN)の気候に関する科学的評価報告書の主著者を務めるエーリッヒ・フィッシャー(Erich Fischer)氏はAFPに対し、「われわれは今、非常に急速な温暖化の時期にあり、従来の記録を大幅に塗り替えるような高温に備える必要がある」と述べた。

 カナダのブリティッシュコロンビア(British Columbia)州では6月下旬、それまでの同国最高気温を5度以上も上回る49.6度を記録した。

 地球温暖化が熱波に与える影響に関する研究はこれまで、気温上昇のペースよりも、基準とする一定の期間に比べてどれだけ気温が上昇したかに焦点が当てられてきた。これはもちろん非常に重要で、温暖化した世界では、より高温の熱波がこれまで以上に多発することは科学的に明らかになっている。

 しかし、気温の上昇ペースを考慮しなければ、全体像における重要な部分を捉え損ねることになる。

■「ステロイド剤」のような気候

「気候変動がなければ、測定期間が長くなるほど、記録的な高温はまれになると考えられる」と、フィッシャー氏は説明する。

 同様に世界の平均気温が安定した場合、例えばパリ協定(Paris Agreement)が目標とする19世紀半ばの水準から1.5度の上昇に収めた場合、劇的な新記録は徐々に減少していくとみられる。

 フィッシャー氏はこれを陸上競技に例えて説明する。規律が長年保たれている陸上競技では、世界記録を出すのが難しい。例えば、走り幅跳びや走り高跳びの記録は長期間破られにくく、破られてもわずかな差でしかない。

 しかし、1990年代後半の米野球界のように、選手がパフォーマンスの強化薬を使用するようになると、記録は突然、頻繁に、しかも大量に更新されるようになる。

 フィッシャー氏は、「現在の気候は、ステロイド剤を使用しているスポーツ選手のようだ」と指摘する。

 温室効果ガス排出量が現在のままならば、温暖化はこのまま進み、2100年までに世界の気温は3度以上上昇するとされている。

 英レディング大学(University of Reading)国立大気科学センター(National Centre for Atmospheric Science)のローワン・サットン(Rowan Sutton)教授は、今回の研究は今月にドイツや中国を襲った異常豪雨のような「記録破りの異常現象が発生する可能性が高いことに焦点を当てる貴重なものだ」と述べた。

「それほど急速には思えないかもしれないが、地球は人類文明史上、例のない速度で温暖化している」 (c)AFP/Marlowe HOOD