【7月28日 AFPBB News】「これでどうですか」。検体採取所でスタッフの女性がマスク越しに笑いながら、タブレットで検索したレモンの画像を見せてくれる。梅干しの写真は効き目がなかった。新型コロナウイルスの世界的な大流行のため1年延期後、23日に開幕した東京五輪。報道陣の取材拠点であるメインプレスセンター(MPC)では、記者やフォトグラファーが利用開始から4日ごとにPCR感染検査のため唾液を提出しなければならない。結局、1.5ミリリットル出すのに5分以上かかった。

 このような苦労は、10回におよぶ五輪の現場体験で初めてだ。1988年ソウル夏季大会から2010年バンクーバー冬季大会まで国際通信社AFPの英文記者として現地取材。定年退職後、昨年暮れからAFPのコンテンツを日本語で配信するAFPBB Newsで翻訳を担当している。

 蚊が媒介する感染症ジカ熱の大流行下で開催された2016年リオデジャネイロ大会でも、今回みたいな検査はなかったとAFPの元同僚が言う。

 首都の臨海エリアにある日本最大のコンベンション施設、東京ビッグサイト(Tokyo Big Sight)に設置されたMPCでの一日は、手の消毒と体温測定で始まる。入り口で、通常の金属探知機、荷物X線検査の前にスプレーのペダルを踏む。

 MPCは、五輪の国際放送センター(IBC)と同居しており、記者やフォトグラファーが共用する750席の広大なワークルームや高いパーティションで仕切られた大手メディア50社の個別の部屋もある。基本的なデザインはどの大会も似ていて、時々、昔の五輪のMPCと錯覚しそうになる。

 だが、決定的な「違い」がある。アルコールがまったく見当たらない。

 MPCが7月上旬にオープンした当初、フードコートやスナック・ドリンクバーにビールとワインが置いてあった。ところが8日、東京でのコロナ緊急事態宣言の再発令とともに消えた。現在、酒類のメニューは目隠しされている。コンビニエンスストアにはアルコール飲料が一切ない。

「とてもピュアだ。肝臓にいい」とAFPパリ本社の英国人記者パイレート・アーウィン(Pirate Irwin)がうそぶく。彼や同僚の記者数人も、MPCでアルコールが提供されなかった大会を思い出せない。2012年のロンドン大会ではパブもあったという。

 飲酒のみならず、海外メディアの日本体験は制限される。日本到着後2週間の隔離期間中、原則的に自由な外出が禁じられている。宿泊ホテル近くのコンビニでは15分以内の買い物が許されている。

「ホテルと、バスとMPC。これが今の生活」と話したのはAFPのスペイン人ベテラン記者パブロ・サン・ロマン(Pablo San Roman)。2000年のシドニーから夏冬8大会連続取材しているが、隔離された「バブル」内での生活は初めてだ。「日本が好きだが、真の雰囲気を感じることができない」

 MPCの公式記念グッズ店はいつでも長い列ができる。コロナ対策で入場制限は6人。大会マスコット、Tシャツ、アクセサリー、卓上カレンダーなど土産物がめじろ押しだ。

 シンガポールのメディアコープ(Mediacorp)の放送ジャーナリスト、リム・ユンスク(Lim Yun-Suk)はこう話してくれた。「買い物するのはここだけです。よそへは行けませんから」 (c)AFPBB News/Shigemi Sato