■犯罪集団の支配とオピオイドのまん延

 今年6月には、マリ出身の27歳の若者が、南部プーリア(Apulia)地方の農地で一日中働かされた後に死亡する事例が起きた。その日の最高気温は40度だった。

 アグロ・ポンティーノは温室栽培や花作り、水牛の乳を原料としたモッツァレラチーズ生産の中心地で、インド人が増えてきたのは1980年代半ば以降だ。かつては湿地帯で、1930年代に独裁者ベニト・ムソリーニ(Benito Mussolini)政権によって大規模な干拓事業が行われた。

 シンさんの救出に助力した社会学者で人権活動家のマルコ・オミッツォロ(Marco Omizzolo)氏によると、アグロ・ポンティーノに住んでいるインド人は2万5000〜3万人で、ほとんどがパンジャブ(Punjab)地域出身のシーク教徒だ。

 地主に代わって農業労働者を集める「カポラーリ(caporali)」と呼ばれる犯罪集団の元締めに牛耳られ、契約書があっても、報酬はわずかしかもらっていないことが多い。

「28日働いても4日分しか給与明細書に付かず、月末に受け取るのは200〜300ユーロ(約2万6000〜3万9000円)の場合もある」とオミッツォロ氏はAFPに語った。

 最近の警察捜査では、さらに深刻な事態が明らかになった。インド人社会でのオピオイドのまん延だ。

 沿岸都市サバウディア(Sabaudia)で逮捕された医師は、がん患者に処方されるオキシコドン系の強力な鎮痛剤1500箱以上をインド人の農業従事者222人に違法に処方した容疑が持たれている。

「この薬物で苦痛や疲労が緩和され、長時間労働を可能にしていたと思われる」とラティーナの主任検察官ジュゼッペ・デ・ファルコ(Giuseppe De Falco)氏はAFPに語った。