■「真実を語ります」

 バヒール氏は、かつて米国人を嫌っていた。しかしある時点で「普通の米国人」が家族を苦しめたのではないことに気付いたという。

「私を嫌う人々は、私を知らない人々です。(中略)同じように私たちの戦士が欧米を嫌うのは、欧米を知らないからです」

 バヒール氏にとって、アフガニスタンの進むべき道は明らかだ。それは平和と和解の道に他ならない。

 旧支配勢力タリバン(Taliban)とアフガニスタン政府との和平交渉は、ここ数か月にわたって行き詰まっており、その間、地方部では戦闘が広がっている。この和平交渉には、祖父のヘクマティアル氏も加わっている。

 バヒール氏は、カブールにあるアメリカン大学で働くことで米国との新しい関係を築き、さらには幼年期のつらい思い出を払拭(ふっしょく)しようとしている。

 一方、祖父を慕う思いも隠さない。「家族を愛する気持ちを捨てることなんてできますか」

 オーストラリアで高等教育を受けたことが、バヒール氏を和解の道へと導いた。だが、そこでも祖父の話が付きまとった。

 バヒール氏は、オーストラリア軍兵士としてアフガニスタンへの派遣経験がある教師に、自分がヘクマティアル氏の孫であることを打ち明けた。「彼はショックを受けていました。でも彼が心配したのは、私の考え方が偏っていないかということだけでした」

 オーストラリアからカブールに戻ったのは2018年。ヘクマティアル氏がアシュラフ・ガニ(Ashraf Ghani)大統領と和平協定を結び、孤立した状態から復帰した翌年だった。

 バヒール氏のアメリカン大学入りに手を尽くしたビクトリア・フォンタン(Victoria Fontan)副学長は「ヘクマティアル氏は孫をとても誇りにしています」と語った。

 バヒール氏によると、大学では家の悪口を言うなという冗談が、ヘクマティアル氏の口癖だという。「祖父に言いました。僕は政治アナリストで、講師です。心に思ったことを言い、真実を語ります」

 和解への期待はさておき、バヒール氏は祖国の行く末を案じている。「システムが崩れる可能性は十分にある。新しい内戦が起きるリスクがいっそう大きくなるかもしれない」

 映像は6月に取材したもの。冒頭の写真はバヒール氏より提供。(c)AFP/Anne CHAON