【8月15日 AFP】ブーンと音を立てる映写機と優雅なバルコニー──「シャヒ・シアター(Shahi Theatre)」は、英領インド時代にヒマラヤ(Himalaya)山脈の避暑地としてにぎわったシムラ(Shimla)に残る唯一の単館系映画館だ。

 しかし、経営悪化に苦しんでいた国内の多くの単館系映画館と同じく、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が、100年の歴史を持つシャヒ・シアターに死を告げる最後の一押しになるかもしれない。

 北部ヒマチャルプラデシュ(Himachal Pradesh)州の州都シムラは英植民地時代、平地の猛烈な夏の暑さから逃れ、植民地政府が丸ごと引っ越してくる「夏の首都」となっていた。シャヒ・シアターはそんな時代に、劇場としてスタートした。

 現在シャヒ・シアターを所有するサーヒル・シャルマ(Sahil Sharma)さんは、祖父が建物を購入し、1947年に英国が去った後に映画館として造り替えたと話した。当時、シムラには映画館が3館あったが、庶民には手が出ない値段だったという。

「当時は、英植民地時代の遺産が残っており、正装しなければ夜に映画を見に行くことはできなかった」と、シャルマさんはAFPに語った。

「だから、一般市民や貧しい人にとって、自分のものだと呼べる映画館はなかった」

 シムラはインド独立後の黄金時代、人気の観光地となった。時の首相や有名人を招いた映画上映が行われ、最新のボリウッド(Bollywood)映画を見ようと人々が集まった。

「パキスタン首相の娘が映画を見に来た1972年、私もここにいた」と、アショク・カプール(Ashok Kapoor)さん(69)は懐かしむ。当時カプールさんは、今は閉館した映画館「リッツ・シネマ(Ritz Cinema)」で働き始めたばかりだったという。その後、カプールさんは、同映画館の責任者にまで上り詰めた。

 バングラデシュ独立戦争中だった前年、インドとパキスタンの間で短期間衝突が起こったため、両国の指導者らはシムラで緊張緩和に向けた協議を重ねていた。このため、首相の娘がここに来たとカプールさんは説明した。