【7月24日 AFP】自分らしく生きようとするトランスジェンダーのディナ・ジェイコブス(Dina Jacobs)さんにとって、人生は困難の連続だった。だが、ようやく長かったトンネルの出口に光が見えてきた。

「どんなことだろうと最終的にはどうにかなる。500万回の『ノー』と1回の『イエス』。その1回がこれ。これが私のイエスです」。ドラァグパフォーマーとして57年間ステージに立ってきたジェイコブスさんは、控え目なワンベッドルームに記者らを案内し、そう話した。

 6月下旬に正式オープンした集合住宅「ロー・ハリントン高齢者生活センター(Law Harrington Senior Living Center)」は、寝室1部屋もしくは2部屋の住戸112戸と、図書室やドッグパークなどの共用施設を備えるLGBTQ(性的少数者)向けの高齢者施設だ。

 高齢で体が弱くなった人々が地域で暮らし続けるために住居を提供することと、より広範なLGBTQコミュニティーを温かく受け入れていくことを目的に設置されたこの施設に、ハワイ出身のジェイコブスさんも部屋を借りることになった。月々の家賃は500ドル(約5万5000円)を超えない。

 開所式に出席したヒューストン(Houston)のアニース・パーカー(Annise Parker)前市長は、「多くの性的少数者は介護を担う子どもがいない。またLGBTQであることを公にして経済的に困窮したり、職を失ったりしている場合もある」と指摘する。

 パーカー氏は、8年前にロサンゼルスにある同様の施設を訪れ、ヒューストンにも社会的弱者を温かく迎え入れる集合住宅が必要だと考えるようになったという。パーカー氏自身、市長になる前から性的少数者であることを公言していた。当時、性的少数者であることを公にする市長は、米主要都市ではほぼ皆無だった。

■前向きな環境

 ロー・ハリントン高齢者生活センターは、LGBTQの高齢者の受け入れに特化した施設としては全米最大を誇る。ヒューストン出身の権利活動家、チャールズ・ロー(Charles Law)とジーン・ハリントン(Gene Harrington)の名前を取って命名された。施設中央のタワーは、LGBTQを象徴する虹色で彩られている。

 このプロジェクトを主導したのは、1978年創設の性的少数者支援組織、モントローズ・センター(Montrose Center)で、開設資金として2650万ドル(約30億円)を集めた。

 入居者はLGBTQコミュニティーを支援する「レガシー・コミュニティー・ヘルス・サービシズ(Legacy Community Health Services)」の医療クリニックも利用できる。

 同団体によると、高齢の性的少数者は過去に差別的に扱われた体験から病院に行かないことも多いという。