【7月16日 AFP】脳卒中で発話能力を失った人の大脳皮質活動を「解読」し、まとまった文章にする神経機能代替装置の開発に世界で初めて成功したとする米研究チームの論文が15日、米医学誌「ニューイングランド医学ジャーナル(New England Journal of Medicine)」に掲載された。

 筆頭著者の一人で、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の博士課程を修了したデービッド・モーゼス(David Moses)氏(工学)は、「自然な意思の疎通ができない人にとって、重要で画期的な技術革新だ」と述べている。

 UCSFのチームは、これまでの研究よりも速く有機的なコミュニケーションの実現を目指し、「脳・コンピューター・インターフェースによる腕と声の回復(Brain-Computer Interface Restoration of Arm and Voice)」と題した新たな研究を立ち上げた。

 この研究には、20歳の時に脳卒中を患い、認知機能は損なわれていないが明瞭に話すことができない「講語障害」のある男性(36)が協力した。男性は脳幹卒中の後遺症で、頭や首、手足をほとんど動かせなくなり、今は野球帽に取り付けた棒で画面に表示された文字を指して意思疎通を行っている。

 研究チームは「水」「家族」「良い」など、男性が毎日必ず使用する言葉50語をまとめた語彙(ごい)集を作成。男性の脳の発話をつかさどる運動皮質に高密度の電極を埋め込み、これらの言葉を男性が言おうとした際の神経活動を数か月かけて記録した。さらに、人工知能(AI)を用いて記録したデータの微妙な差異を判別し、単語と結び付けた。

 その後、男性に語彙集に含まれる単語だけで作った文章を提示し、男性が言おうとした言葉が画面上に表示されるかを確認した。

 次に、研究チームが「今日の調子はどうですか?」と質問すると、男性は「I am very good(とても良いです)」と答えを返すことができた。「水を飲みたいですか?」との質問には、「No, I am not thirsty(いいえ、喉は渇いていません)」と答えた。

 このシステムは1分間に最大18語を解析でき、正確性は平均75%だった。携帯電話などに使われているものと同様の「自動修正」機能により、高い精度を実現できたという。

 男性を担当する神経外科医で論文を共同執筆したエドワード・チャン(Edward Chang)氏は、「私たちの知る限り、まひを患って話すことができない人の脳活動から完全な単語を直接解読することに成功した初の実証実験だ」と述べている。(c)AFP