【7月7日 AFP】(更新)フランスのカンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)が6日、開幕し、きらびやかさと政治、論争が入り交じった独特の雰囲気をすぐに取り戻した。ルールで禁止されていたにもかかわらず、スターたちがマスクなしでキスを交わす姿も見られた。

 世界最大の映画祭であるカンヌ国際映画祭は昨年、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)の影響を受けたが、今年もソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)がルールとして適用された。

 スターたちは、マスクなしでレッドカーペットを歩くことは認められたが、キスをしてはいけないというルールが厳格に定められた。しかし、いざレッドカーペットに登場するやいなや、次々とキスやハグが繰り広げられた。

 同映画祭会長のピエール・レスキュール(Pierre Lescure)氏は気持ちを抑えられない様子で、ハリウッド俳優ジェシカ・チャステイン(Jessica Chastain)さんや、歌手で元仏大統領夫人のカーラ・ブルーニ(Carla Bruni)さんの頬に2回ずつキスをした。

 レスキュール氏はさらに、審査員を務める仏俳優メラニー・ロラン(Melanie Laurent)さんに対しても、かがんで手にキスをした。

 キスを禁止するルールを強く求めていた同映画祭総代表のティエリー・フレモー(Thierry Fremaux)氏も、マスクなしで登場した韓国のポン・ジュノ(Pong Jun-Ho)監督にハグを許した。

 米俳優アダム・ドライバー(Adam Driver)さんは、仏俳優マリオン・コティヤール(Marion Cotillard)さんと共演したミュージカル映画『Annette』が映画祭のオープニングを飾る前にAFPの取材に応じ、「新型コロナウイルス感染症はまだ存在しているが、カンヌに来たことで大きな安堵(あんど)と興奮を覚えている」と語った。

 ハリウッドスターのジョディ・フォスター(Jodie Foster)さんは、輝かしい業績に対する名誉パルムドール(Palme d'or d'​honneur)をスペインのペドロ・アルモドバル(Pedro Almodovar)監督から授与された際、新型コロナ流行に見舞われた地球の雰囲気を見事に表現。

「私たちの多くはこの1年間、苦しみや不安、死の恐怖に直面しながら、自分の小さな泡の中に閉じこもって過ごしてきた」と述べ、「しかし、かつてない1年を経て、私たちは美しい衣装に身を包んで戻ってきた。みなさん、華やかさが恋しかったのでは? 私もそうだった」と笑いも誘った。

 その後、フォスターさんはアルモドバル監督、米国のスパイク・リー(Spike Lee)監督、そして最高賞最高賞「パルムドール(Palme d'Or)」を前回2019年に受賞したポン・ジュノ監督と映画祭の開幕を宣言した。

■政治家批判全開のスパイク・リー監督

 黒人として初めてカンヌ国際映画祭の審査員長に就任したリー監督は、開幕前から堂々と政治的な姿勢を打ち出していた。

 6日のフォトコールにリー監督は、南北米大陸に初めて奴隷が到着した年を表す「1619」と書かれた帽子をかぶって登場。ジョージアで最近、ロシアの影響で性的少数者(LGBT)の権利を訴える「プライド」のイベントが取り締まられたとする同国ジャーナリストの切実な訴えを受け、「この世界は、ギャングに牛耳られている」と述べた。

 さらに、日ごろから「エージェント・オレンジ(枯れ葉剤)」と呼んでいるドナルド・トランプ(Donald Trump)前米大統領にも矛先を向け、「エージェント・オレンジ、それからブラジルのこの男(ジャイル・ボルソナロ<Jair Bolsonaro>大統領)、(ロシア大統領のウラジーミル・)プーチン(Vladimir Putin)はギャングだ。彼らにはモラルも良心の呵責(かしゃく)もない。それが私たちの住む世界だ」と述べた。

 リー監督は、レッドカーペットで審査員たちを先導。ショッキングピンクのダブルのスーツにそろいのメガネ、カラフルなスニーカーといういで立ちで登場した。

 映像前半はレッドカーペットで、フランスのロズリーヌ・バシュロ(Roselyne Bachelot)文化相の頬にキスをしてあいさつするリー監督。後半は「1619」と書かれた帽子をかぶってフォトコールに登場したリー監督。6日撮影。(c)AFP/Francois BECKER / Jürgen HECKER