【7月6日 AFP】カンボジアの首都プノンペンの高級住宅街で飼育され、先週当局が保護したライオンが、フン・セン(Hun Sen)首相の異例の指示により5日、中国人飼い主の元へ戻された。

 当局によると、ライオンは生後1年6か月、体重70キロ。飼い主が海外から密輸し、「ヒマ(Hima)」と名付けて飼っていた。

 当局は中国の動画投稿アプリ「ティックトック(TikTok)」で、プノンペンの邸宅で遊ぶライオンの動画を見てその存在を知った。先月27日に保護され、野生動物保護センターに移送された。

 救出を支援した野生生物保護団体「ワイルドライフ・アライアンス(Wildlife Alliance)」は、ライオンが飼われていた個人宅は野生動物にとって「不適切」で、飼い主は犬歯を抜き、爪も除去していたと指摘した。

 保護から数日後、飼い主のチー・シャオ(Qi Xiao)さんが、ヒマに会いにセンターを訪れた動画は、インターネットで話題になった。

 ヒマをなでながら餌の肉を与えるチーさんの様子が愛情に満ちていたことから、ソーシャルメディアでは、チーさんとヒマが再び一緒に暮らせるよう求める声が上がった。

 フン・セン首相は4日、フェイスブック(Facebook)で、「邸宅内の人や近隣住民の安全を確保するために適切なおりを作る」という条件で、チーさんにライオンを返すと発表した。さらに首相は当局に対し、チーさんが支払った罰金の払い戻しを命じた。

 チーさんは首相の投稿のコメント欄に感謝の言葉と、「カンボジアと中国がいつまでも強い友情で結ばれることを願っている」と書き込んだ。

 ヒマは5日午後、チーさんの邸宅に戻ってきた。報道陣の取材に応じるチーさんの後ろで、犬と一緒に走り回っていた。

 しかし、誰もがこの結果を喜んでいるわけではない。

 英国のティナ・レッドショー(Tina Redshaw)駐カンボジア大使は、「絶滅の危機にひんした野生動物の所有や取引を防ぐ法律を台無しにするもので、野生動物の違法取引に対抗する国際的な努力にとって有害だ。不適切な飼育による(動物の)ストレスや苦痛は言うまでもない」とツイッター(Twitter)に投稿した。

 カンボジア当局に、チーさんの罰金額や法律上の措置を変更したことについてコメントを求めたが、回答は得られなかった。

 世界でも有数の長期政権を率いるフン・セン氏は親中派として知られており、中国から数千億円規模の長期低利融資や投資を受けている。(c)AFP