【8月1日 AFP】クロアチアの小さな町外れの道路標識につるされたオオカミの死骸は、家畜を襲われた農家の怒りが一線を越えたことを警告していた。

 誰がオオカミをつるしたのかは分からない。だが、死骸が出現したのは、今年4月に地元の農家がヒツジ90頭近くをオオカミに殺されてから、わずか数日後のことだった。

 新聞に掲載され、ソーシャルメディアで拡散された血まみれになったヒツジの死骸写真は、大勢の人に衝撃を与えただけではなく、オオカミの駆除を求める農家の声を勢いづかせた。

「オオカミはどこにでもいて、怖いもの知らずで、どうやって自己防衛すればいいのか分からない」と、牛飼いのイバン・テシア(Ivan Tesija)さんは話す。

 クロアチアでは絶滅の危機にひんしたオオカミを、1995年から法律で保護してきた。

 2005年以降は一定数の駆除が認められたが、個体数の減少を食い止めるため、2013年に再び全面禁止となった。

 政府の統計によると、2020年にオオカミによって殺されたりけがをしたりした家畜の数は、例年をわずかに上回る約3000頭で、その多くがヒツジだった。

 経済省は、アドリア海(Adriatic Sea)に近い内陸部からスロベニアやボスニアと国境を接する山間部まで、人口の少ない地域に約160匹のオオカミが生息していると推測している。

 しかし、農家や猟師らは、実際の数は300匹ほどで、2万5000平方キロの生息地に対して多すぎると話す。

 オオカミと犬の交雑種オオカミ犬の存在が、状況をさらに複雑にしている。科学者らは、オオカミの個体数の約10%を交雑種が占めると推測する。

「オオカミ犬は大問題だ。怖いもの知らずで、狩猟本能に欠き、簡単に捕まえられる獲物を狙う」と、獣医師で猟師のボリス・カティッチ(Boris Katic)さんは述べた。イノシシやシカではなく、ウシやヒツジが狙われるという。

 ザグレブ大学(Zagreb University)のヨシップ・クサク(Josip Kusak)氏はオオカミ犬の急増について、雄のオオカミが殺され、雌のオオカミが野良犬と交配せざるを得なくなったからだと説明する。