【7月8日 AFP】「女性は天の半分を支えている」のかもしれない。だが、公共スペースや住居の設計となると、女性たちの声はあまりにもしばしばかき消されてきた。

 この状況を覆そうという先進的プロジェクトが、オーストリアの首都ウィーン郊外で進められている。女性による女性のための都市設計だ。

 舞台はウィーン東端に広がる新興地区、ゼーシュタット(Seestadt)。現在8300人という同地区の人口は、2030年までに2万人に増えると予想されている。

 一部の建築工事現場の囲いに掲げられた看板には、大きな字で「女性が街をつくる」と書かれている。

 都市計画における女性の役割に焦点を当てることで、ウィーン市は街をつくり上げていく上で、男性が依然、支配的役割を占めることを浮き彫りにしようとしている。

 ジェンダーと都市計画の関係を大学で研究する建築家のサビーナ・リス(Sabina Riss)氏によると、都市開発で重要な決定を下すことが多い開発業者や銀行家は、現在も圧倒的に男性だ。

■通りの名にも変化

 だが、ゼーシュタットの新建築物の設計には女性たちが深く関わっている。さらに通りの名前には女性が多く登場する。

 哲学者のハンナ・アーレント(Hannah Arendt)、歌手のジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)、さらに児童文学の主人公「長くつ下のピッピ(Pippi Longstocking)」にちなんだ場所もある。

 同地区にある中庭の一つを設計した建築家カーラ・ロー(Carla Lo)氏によると、ウィーン市の都市計画政策が一新されたのは2018年。年間予算10億ユーロ(約1300億円)以上を監督する同市の住宅部門に初の女性トップ、カトリン・ガール(Kathrin Gaal)氏が就任してからだ。

「彼女が就任してすぐに、開発事業入札の際にシングルマザーに何が必要なのかが検討されるようになったのです」とロー氏は言う。

 女性のニーズに応えようとする姿勢は、ウィーン市の現代的な都市計画の随所に表れている。女性の安心感を高めるために街灯を明るくすることや、スポーツ会場の出口の増設、トイレ施設の改善などだ。

 住居の設計にも女性のニーズに合わせた工夫が見られる。例えば集合住宅には、1戸当たりの価格を抑える目的に加え、住民同士が子育てで協力し合えるよう共有ルームが備わっている。

 この地区の一角には、女性の建築家や都市設計家に焦点を当てた展示コーナーが設けられている。共同キュレーターのボイチェフ・チャヤ(Wojciech Czaja)氏は「ウィーン市の通りの名は、92%が男性にちなんでいます」と述べ、「これでは、(街の)過去の姿も現在の姿も反映されていません」と指摘した。