【7月10日 東方新報】経済発展著しい中国の弱点の一つと言われるのが、水の問題だ。先進地の沿岸部で工業用水と生活用水が不足しており、経済成長のハードルとなっている。海水の淡水化を国策として推進しているが、課題も山積している。

 中国の沿岸11省・直轄市・自治区は国内総生産(GDP)の55%を生み出しているが、水資源の総量は全体の27%にとどまっている。沿岸の55都市のうち51都市が慢性的に水不足に悩まされている。その解決策として最も力を入れているのが海水の淡水化だ。

 経済・社会の発展に関する政府のマクロコントロール部門・国家発展改革委員会は6月、「海水淡水化利用発展行動計画(2021~2025年)」を発表した。淡水化モデル都市の推進、淡水化利用モデル工業団地の建設などを進め、淡水化の処理容量を現在の1日あたり165万トンから2025年に290トンに拡大するとしている。

 しかし、中国政府はそもそも「2020年までに1日300万トンの海水を淡水化する」と目標を掲げていた。目標は実現できず、計画を5年ほど後ろ倒しにしただけというのが実情だ。

 国家発展改革委員会の孟瑋(Meng Wei)報道官は「中国の海水淡水化のプロジェクトは規模が比較的小さく、重要な淡水化技術では世界の先進レベルとギャップがある」と率直に問題点を認める。

 例えば、中国の淡水化施設は「逆浸透技術」が主流だ。淡水と塩水(海水)を半透膜で仕切り、塩水に含まれる水の分子を淡水側に押し出すことで水分と塩分を分離する手法だが、逆浸透技術では日本と米国の企業が国際市場の大半を占めている。エネルギー回収装置では米国やスイス、高性能の海水高圧ポンプではドイツやデンマークが進んでいる。中国も国産企業が育っているが、総合力では及ばないのが現実だ。また、淡水の供給価格が通常の水道水より高いため、企業が工業用水としての利用をためらっている事情もある。

 象徴的なのが、天津市(Tianjin)がイスラエルの企業の協力で建設した国内最大の淡水化基地だ。利用されていなかった塩の干潟に発電・淡水化施設を建設し、1日の水生産量は20万トンを誇る。「不毛の大地を宝の地に変えた」「発電-淡水化-製塩-土地の再活用-廃棄物の再資源化という五位一体の循環経済モデルを実現した」と言われたが、周辺には大量の工業用水を必要とする大規模工場が少なく、給水パイプライン網の整備も進んでいないため、能力を最大限に発揮できていない。「宝の持ち腐れ」になっている背景には、行政の縦割り主義や官僚主義もあるようだ。

 孟瑋報道官は「淡水化事業を後押しするインセンティブ政策も不十分だった」と説明。海水淡水化利用発展行動計画では、政府が海水淡水化事業への資金投入を拡大し、沿海部の自治体が淡水化企業に補助金や免税などの優遇措置を図るよう明記している。重点産業を後押しする際の中国の典型的な手法だが、官僚主義を打破し、イノベーションを促進することができるかどうかが注目される。(c)東方新報/AFPBB News