■一発勝負の「怖さ」を乗り越えられるか

 今もスリムな体形を維持し、細身のスーツを着こなす野村氏は、2015年に40歳で引退した後は、選手のマネジメントやメディア出演を仕事にしてきた。

 リネールとは、2007年頃にフランスへ遠征した際に初めて顔を合わせ、今ではよく知る仲だという。野村氏はリネールを「優しさと愛嬌(あいきょう)を持っている」が「恐ろしい選手」と評し、世界柔道(World Judo Championships)優勝10回を達成したことで「絶対王者」になったと話した。

 それでも五輪柔道で唯一、3大会連続の金メダル獲得に成功したレジェンドは、自身の偉業に並ぶのがどれだけ難しいかをよく分かっている。

 1996年アトランタ五輪当時の野村氏は、それが最初で最後の五輪になると思っていたが、勝ち上がる中で自信を深め、最後は金メダルを持ち帰った。4年後のシドニーでは、全盛期にあったことで再び優勝したが、その後はプレッシャーを感じるようになり、落ち着くために米国へ移住。そこで柔道への情熱を取り戻し、アテネでの3連覇を目指して日本へ戻った。

 野村氏は「もう野村はダメだと言われることがいっぱいあったし、いつまで現役にしがみついているんだ、もうやめたほうがいいともいっぱい言われたけど、結局は自分を信じられるのかというところと、求めるものに対してどれだけ自分が真剣に本気でやれるのか」だったと話している。

 リネールは2008年の北京五輪で、ウズベキスタンのアブドゥロ・タングリエフ(Abdullo Tangriev)に準決勝で敗れて金メダルを逃した。野村氏は、本来ならリネールはすでに3連覇を達成できていたはずだと考えているが、「勝負にはそういう怖さがある」と指摘している。

 それでも野村氏は、1964年東京五輪でも柔道が行われた「聖地」武道館は、リネールが3連覇を実現するのにふさわしい舞台だとみている。

「会場に行くだけで、気持ちがぐっと引き締まるような特別な空気。映像でしか見なかった日本武道館での五輪柔道が、目の前でリアルで行われるというのはすごくうれしく思う」

「リネール選手も、柔道が生まれた日本で五輪を迎えられるというのは、すごい幸せなことというふうに言っていた。その中で、決勝で原沢対リネールというのは見てみたい」 (c)AFP/Andrew MCKIRDY