【7月4日 AFP】スペイン人のジャウマ・プッチ(Jaume Puig)さん(52)の息子ビエル君は、2歳になったころからよく転び、階段を上るのにも苦労するようになった。

 何人かの医師に診てもらった結果、ロービジョンと診断された。ロービジョンは全盲よりもはるかに一般的な症状で、日常生活に支障が出る。

 ビエル君の場合、問題があったのは視神経だが、網膜や脳などの視覚系の障害や、緑内障、黄斑変性などが原因の場合もある。

 ロービジョンは眼鏡で矯正したり、手術で治したりすることはできない。拡大鏡は読書など特定の作業には役立つが、幼児の移動を支援できる技術はなかった。

 そこで2017年、電気技師のプッチさんと医師である妻のコンスタンサ・ルセロ(Constanza Lucero)さんは、ロービジョンの人が自力で安全に移動できるためのデジタル機器の会社「ビエル・グラス(Biel Glasses)」を設立した。

 ロービジョン支援のために存在するのは、「つえと盲導犬だけ。他には何もない。ニーズがあると思った」とプッチさんはAFPに語った。

 夫婦で開発したヘッドセットは、バルセロナ(Barcelona)で開催された世界最大級の通信業界の国際見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」で展示された。

 ゲーム用ゴーグルと眼鏡を掛け合わせたようなヘッドセットは、現実の3D画像を作成し、その上にテキストやグラフィック、ビデオを重ねて表示することができる。

 障害物は人工知能(AI)を使って検知。行く手を遮るものに近づくと、画面上に大きな赤い円が表示される。道路標識などは拡大して見ることもでき、使用者のニーズに合わせてカスタマイズも可能だ。

「私たちはこうした技術を使って、息子自身の視覚を活用し、より自立できるようになると考えた」とプッチさん。「治すことはできないかもしれないが、助けることはできる」

 ヘッドセットの開発には約90万ユーロ(約1億2000万円)かかったが、そのうち自己資金は6万5000ユーロ(約860万円)で、残りは公的機関やクラウドファンディングで調達したという。

 すでに欧州連合(EU)で使用が承認され、今年末にはスペインとデンマークで販売が開始される予定だ。価格は4900ユーロ(約65万円)。

 プッチさんはこれまで、他にもいくつかのテクノロジー関連のスタートアップ企業を設立してきた。ヘッドセットには今後、音声起動機能やグーグルマップ(Google Map)と連動したナビゲーションシステムを追加したいという。(c)AFP/Daniel SILVA