【7月5日 AFP】祖国セネガルを後にして、スペイン・カナリア諸島(Canary Islands)を目指す危険な船旅に出たときには、まさか大都市バルセロナ(Barcelona)の路上で偽ブランド品を売ることになろうとは思いもしなかった。

 そうした無許可の露天商らは、広げた布(マンタ)の上に売り物を置くので「マンテロ」と呼ばれ、常に警察の手入れを警戒しながら不安定な生活を送っている。

 だが、ラミーヌ・サール(Lamine Sarr)さん(38)らは一計を案じ、バルセロナ市内の路上販売業者を束ねる組合を設立した。

 露天商組合は現在、独自のスニーカーブランドを立ち上げたばかりで、「ゲームのルールを変える」と意気込んでいる。「いつもコピー商品ばかり売っていたので、いつか自分たちのデザイン、自分たちの服でブランドを作りたいと願っていました」とサールさん。

 スニーカーに付けた名前は「アンデ・デム(Ande Dem)」。セネガルで最も広く使われている言語、ウォロフ語で「一緒に歩く」という意味だ。

 この企画を担っているのは、組合が2017年に設立したアパレル会社「トップ・マンタ(Top Manta)」。その名はずばり、模倣品の路上販売を指す。スタッフのほとんどがサハラ以南アフリカの出身だ。

「このブランドを創設したときから、スニーカーを考えていました。簡単にいきそうに思えましたが、資力がありませんでした」とサールさんはAFPに語った。

 企画立ち上げから2年。マンテロたちは地元のアーティスト2人と協力し、非動物由来のサステナブル(持続可能)素材を使い、大量生産ではなく地元の小さな工場でスニーカーを製造している。

 頑丈な靴底で、表側は黒か黄褐色の生地に「アフリカを表す色」のしま模様が入る。「トップ・マンタ」のロゴが象徴するのは布であり、スペインにたどり着くために渡った危険な海の「波」でもある。

「アンデ・デム」スニーカーの小売価格は115ユーロ(約1万5000円)。先月、6万3000人のフォロワーがいる同社のインスタグラム(Instagram)上で、刺激的な広告と共に売り出された。

「人生はスニーカーの広告のようにはいかない。わなだらけのレースだ」と女性の声のナレーション。数人の警官が移民を追いかけ、捕まえて地面に押さえつける映像が流れる。

 そして「ただやるだけではなく、正しくやるんだ」とナレーションが続く。明らかに米スポーツ用品大手ナイキ(Nike)の「Just Do It(やるしかない)」というスローガンをもじった表現だ。