【7月4日 AFP】古い建物が消え、次々と超高層ビルに置き換わっている香港で、過去の建築物を精巧なミニチュアで保存しようとしている2人のアーティストがいる。

 トニー・ライ(Tony Lai)さんとマギー・チャン(Maggie Chan)さんのスタジオに足を踏み入れると、タイムマシンに乗ったように感じる。

 部屋の一角には観覧車のある遊園地が広がる。反対側では中秋節の祭り「舞火龍(ファイヤードラゴンダンス)」が盛り上がっている。細部まで作り込まれた回転レストランや窓から洗濯物が突き出る団地、かつては香港の街を万華鏡のように照らしたネオンもある。

 2人は、子どもの頃に見た風景をよみがえらせたいという共通の熱い思いを持っている。香港の人たちは、過去を垣間見て、色あせた記憶を取り戻したがっているという。

 1982年に取り壊されたカイタック遊園地(Kai Tak Amusement Park)のミニチュアを指しながらライさんは、「お年寄りが私たちの作品を見て、目を潤ませることがよくある」と語った。

 香港では、過去を保存するのは難しい。

 歴史的建造物を保存しようとすると、資金力のある不動産開発業者や住宅不足解消のため高層マンションの建設を進めようとする政府としばしば対立することになる。

 最近では政府も建築遺産の保護に腰を上げ始めているが、建築家や歴史家、地元の人々が大切にしていた英国植民地時代の建物や施設の多くは取り壊されてしまった。

■思い出を探して

 香港で生まれ育ったライさんは、父親に連れられてラマ(Lamma)島に行ったことを楽しげに思い出す。島の海岸線には、崩れそうな木造の家が集まる漁師の集落があったという。

 チャンさんとライさんのスタジオ「TOMAミニチュア(TOMA Miniatures)」が生み出した最も精巧な作品の一つが、そうした村の営みを再現したジオラマだ。「あの記憶が今も残っている」とライさん。

 チャンさんは、父親が家に持ち帰る土産からヒントを得て、香港の食べ物のミニチュア版を作ることからキャリアをスタートさせた。

「一枚のポスターや一杯の牛バラ肉麺、それだけでも人は何かを思い出し、感情に浸ることができる」