【7月3日 AFP】1942年に公開された米ウォルト・ディズニー・スタジオ(Walt Disney Studios)のアニメ映画『バンビ(Bambi)』は世界的に有名だが、その原作者についてはあまり知られていない。「バンビ」の作者フェリックス・ザルテン(Felix Salten)は、ナチス・ドイツ(Nazi)の迫害を逃れ、ウィーンを離れることを余儀なくされた人物だ。

 現在、オーストリア・ウィーンのウィーン・ミュージアム(Wien Museum)では、ザルテンの展覧会が開催されている。

 ザルテンは1869年、オーストリア・ハンガリー二重帝国のブダペストに生まれ、翌年、家族でウィーンに移った。

 自身も猟をしていたザルテンは1922年、猟師に母を殺された子鹿の象徴的で切ない物語「Bambi:A Life In The Woods(バンビ─森の生活の物語)」を執筆。翌年出版されたが、すぐには読者に受け入れられなかった。

 1930年代、ザルテンは、作品の映画化権を米国のプロデューサーに1000ドルで売却。プロデューサーは権利をディズニーに売った。

 展覧会のキュレーター、ウルズラ・シュトルヒ(Ursula Storch)氏がAFPに語ったところによると、ザルテンが出版社を代えたことで、本はより大きな成功を収めた。「もちろん、1942年の映画化でさらに有名になりました」

 だがそれまでには、ザルテンがユダヤ人であることを理由にドイツでは「バンビ」を含むザルテンの作品が禁止されていた。1938年にナチス・ドイツによるオーストリア併合がなされると、オーストリアでも禁止された。

 1939年3月、ザルテンは何千冊もの本と共にスイスに亡命。その2年後、ナチス・ドイツはザルテンの国籍を剥奪した。

■救われる気持ち

 ザルテンの孫娘にあたるスイス人のレア・ワイラー(Lea Wyler)さんに祖父の記憶はないが、「愛情深く、ユーモアがあり、ちゃめっ気のある」と聞いている祖父が残した数多くの作品の中で、「バンビ」だけが世間の記憶に残っていること、ディズニーの映画が原作を陰らせていることを嘆いている。

 だが、ウィーンで展覧会が開かれ、ザルテンがたたえられていることで「救われる気持ち」になるとワイラーさんは語った。(c)AFP/Anne BEADE