■「喪文化」

 急増する持たざる若者たちの間で昨年流行した言葉は、「内巻(ネェイジュエン)」だった。元は首都北京の一流大学、精華大学(Tsinghua University)の学生たちが自転車で走りながら、ノートパソコンを使う姿を映した動画をやゆする言葉だったが、今では現代生活、特に都市における競争過多を表す日常語となっている。

 新卒者の平均初任給は1000ドル(約11万円)前後で、北京の家賃はその半分を優に上回る。

 若い世代の幻滅感は「喪(サン)文化」という言葉でくくることができる。喪文化は、1990年代以降の若者たちの敗北感を表す自虐的なサブカルチャーとして生まれた。「喪」は意気消沈、無気力を意味する。

 ノッティンガム大学寧波中国(University of Nottingham Ningbo China)の研究者、陳志偉(K Kohen Tan)氏は、ミレニアル世代が自分たちの「社会的上昇を妨害するガラスの天井」をいっそう意識するにつれ、喪文化はサブカルチャーから主流になったと指摘する。

 喪文化の初期のシンボルは、「カエルのペペ(Pepe the Frog)」だった。米国では極右勢力オルト・ライト(Alt-right)のシンボルとして重用された漫画キャラクターだが、中国では「悲しいカエル」と呼ばれ、ペペを用いたミーム(笑いを誘うネット画像や動画)が世代の幻滅感を伝えた。

 今年4月にはボーイズバンドのメンバーを発掘するリアリティー番組から、喪文化の新たなアンチヒーローが現れた。この番組に嫌々出演しながら決勝まで進んだロシア人のウラジスラフ・イワノフ(Vladislav Ivanov)さん(27)は、自分に投票しないよう何度もファンに呼び掛けていた。

 契約に縛られ、仕方なく出演するイワノフさんの姿は、自分は「賃金奴隷」だと感じている多くの人々の気持ちをつかんだ。