【6月16日 AFP】12日に行われたサッカー欧州選手権(UEFA Euro 2020)のデンマーク対フィンランド戦で、試合中に突然倒れたデンマーク代表のクリスティアン・エリクセン(Christian Eriksen)を救う立役者の一人となった主将シモン・キアル(Simon Kjaer)に対して、岩のような落ち着きだったと称賛の声が寄せられている。

 フィンランド戦の前半終盤にエリクセンがいきなり倒れると、スタジアムは時が止まったかのようになった。しかし、自陣でそれを見ていたキアルはすぐさまエリクセンのそばへ駆け寄ると、頭部を安定させて口を開き、舌が詰まって窒息するのを防いだ。この処置が功を奏したとみられ、駆けつけた医療スタッフは心停止状態のエリクセンにCPR(心肺蘇生法)を施すことができた。

 こうした判断の速さは、キアルを知る人間にとっては驚きではない。

 以前に所属していたフランス・リーグ1のリール(Lille OSC)へキアルを連れてきたジャン・ミシェル・バンダム(Jean-Michel Vandamme)氏は、「彼はとてつもなく冷静で、それは12日の素晴らしい対応を見てのとおりだ」と話し、「彼は現代のフランツ・ベッケンバウアー(Franz Beckenbauer、元西ドイツ代表の主将)のような、素晴らしい人格者だ」と称賛した。

 医師たちが到着した後には、キアルは脇へよけてエリクセンの様子をチェックしつつ、涙を流している人も多かったチームメートをまとめ、エリクセンのまわりを囲んで観客の目やテレビカメラから隠した。

 さらに、最悪の事態を恐れるエリクセンのパートナーがショックを受けた様子でピッチへ下りてくると、ここでもキアルは、守護神カスパー・シュマイケル(Kasper Schmeichel)と共に彼女を抱きしめてなだめた。

 自らも落ち着きぶりを称賛されたシュマイケルは、「素晴らしい人間でありキャプテンだ」とキアルをたたえ、「あの場面でシモン・キアルが指揮を執ったことに驚きはない。素晴らしい倫理観の持ち主だし、彼を友人と思えることが誇らしい」と話した。

 キアルとエリクセンはお互いをよく知る友人同士で、キアルはACミラン(AC Milan)、エリクセンはインテル(Inter Milan)と所属クラブはライバルだが、同じ街に住んでいる。2020-21シーズン、両チームは激しい優勝争いを繰り広げ、インテルが11年ぶりのイタリア・セリエA制覇を果たした一方で、ミランも久しぶりの欧州チャンピオンズリーグ(UEFA Champions League)復帰を決めた。

 インテルのイタリア代表ニコロ・バレッラ(Nicolo Barella)は真っ先にキアルを称賛した選手で、「クラブカラーの枠を超えて、シモンをたたえたい。キャプテンであり、本物の男だ」と話している。

 インテルの最高経営責任者(CEO)であるジュゼッペ・マロッタ(Giuseppe Marotta)氏は、「極めて大きな対応だった」と話し、インテルの過激なファン「ウルトラス」までもが横断幕を広げてキアルをたたえた。

 ミランでも、2020年1月に加入したキアルに次の主将を任せるべきだという声が一部のサポーターから上がっている。(c)AFP