【6月16日 AFP】南米コロンビアの東部平原では長年、人間と猛獣の戦いが毎日のように繰り広げられてきた。ジャガーが畜牛を襲い、農民が散弾銃で応酬する。

 しかし牧場主の一人、ホルヘ・バラガン(Jorge Barragan)さん(61)はジャガーに対し、一方的な休戦を宣言している。この南北アメリカ大陸最大のネコ科大型肉食獣に、好意を抱くようになったのだ。この恐ろしい捕食動物を守るために、数頭の牛を犠牲にしても惜しくないと言う。

 バラガンさんはおよそ10年前、家族経営の農場を拡大するよりも、ジャガーの生息するサバンナを保全する道を選んだ。ジャガーが「死んでいるよりも、生きていることの方が価値がある」というのが持論だ。

 一家は長らく所有地内での野生動物の狩猟を禁じている。ジャガーの餌がなくなるからだ。

「オーロラ(La Aurora、夜明け)」と名付けられた農場は、コロンビア東部のカサナレ(Casanare)県に位置し、自然保護区でもある。

 バラガンさんは今ではジャガーとの遭遇を恐れるより、進んで探し出そうとしている。毎日多くの時間を費やし、農場一帯に設置した隠しカメラ約10台の映像を確認する。画像を通し、「旧友」のジャガーに出会うこともあれば、新顔を発見することもある。

 とはいえ、共存関係が常に良好とは限らない。

■正反対を行く

 ジャガーたちは体重100キロ、体長約2メートルにもなる。これが頻繁にバラガンさんの土地を横切る。

 時には牛が襲われる。1頭につき約300ドル(約3万3000円)の損失だ。年間100頭が餌食になることもある。

 だが、黒い斑点模様の大型ネコを一目見ようとする科学者や観光客の訪問で、損失は部分的でも補えるとバラガンさんは言う。

 2018年は毎月の訪問者数が約160人に達していた。1人1泊30ドル(約3300円)だ。しかし、コロナ禍でこの収入源もほぼ枯渇してしまった。

 国際自然保護連合(IUCN)の評価で、ジャガーは準絶滅危惧種(NT)に指定されている。農地や住宅地、商業地の開発が要因で生息数は減少している。

「ジャガーと牧畜の利害対立は、ジャガーの生存に対する重大な脅威だ」とIUCNは指摘している。「ジャガーの生息範囲内で、ジャガーにとって安全と思われる場所はほとんどない」

 バラガンさんは家畜の損失を抑えるためにジャガーを殺すのが慣行になっていると言う。「でも、うちは正反対を行っています」と誇らしげにAFPに語った。

 自然に対する深い敬意を引き継いだのは父親からだ。だが、ジャガーをこよなく愛するようになったのは2009年。学生が農園に仕掛けていった隠しカメラで写された威厳ある姿を見たときだった。