【6月12日 AFP】かつては武器でいっぱいだった薄暗いトンネルに、今では塩水漬けのアンチョビが詰まった青いたるが何百個も並んでいる。シュールに再利用されている、冷戦(Cold War)時代の遺物だ。

 アルバニアの首都ティラナから南へ60キロ。ラビノフシュ(Labinot-Fushe)のなだらかな丘陵地に広がっているのは、「フィッシュ・シティー(Fish City)」と呼ばれる複合施設だ。

 ここには託児所や子どもの遊び場、映画館、おしゃれなレストラン、それに「チキンアイランド」と呼ばれる高さ50メートルの塔もある。

 その中の水産加工工場では約1500人が働いている。大半が女性で、驚くほど手際よくエビの殻をむいたり、アンチョビの身をおろしたりし、輸出用の箱やびん、袋に詰めていく。

 工場を経営する企業「ロザファ(Rozafa)」の昨年の海産物輸出額は、3200万ユーロ(約43億円)だった。わずか6年前まで放置されていた武器庫からの大転換だ。

■武器処分庫からの復活

 トンネルは保存しつつ、基地の跡にフィッシュ・シティーを建設した工場主のジェルシ・ルツァ(Gjergj Luca)氏は「この場所は廃虚でしかなかった」と語る。

 トンネルを建設したのは、共産主義政権時代の独裁者エンベル・ホッジャ(Enver Hoxha)だ。ホッジャが蓄積したおびただしい数の武器は、彼が死去した1985年以降も長年、何千ものトンネルやバンカーに放置されていた。

 残されたトンネルやバンカーの一部は、後にカフェやホームレスの宿泊所、倉庫などに改装された。そのうち最も独創的な変身を遂げたのが、このフィッシュ・シティーだ。

 ルツァ氏は「今日、われわれには戦いの武器はいらない。雇用と経済・社会生活の向上こそがわれわれの真の闘いだ」と語った。

 映像は4月に取材したもの。(c)AFP/ Briseida Mema and Joseph Boyle